第7章 新年のご挨拶
「どした? 急に怖い顔して」
「…何でもない。勉強、再開しよ」
「なんだよ、腹でも痛くなったのか? トイレ行ってこいトイレ」
「違うし! ほら勉強勉強! 赤点とったら潔子さんとの合宿、夢のまた夢だよ」
自分で口にしておいて、苦しくなった。
ただでさえ辛いのに、私が言った『潔子さん』に奮起する夕を見るのも辛かった。
なんでこんなに近くにいるのに。
なんでそんなに遠く感じるんだろう。
見たこともない『潔子さん』を妬ましく思いつつも、夕のテスト勉強に付き合い続けた。
***
「あの時はサンキューな! おかげで赤点とらずに済んだし」
「…どーいたしまして」
なんか、思い出したらムカムカしてきた。
人の気も知らないでさ。
結局つきっきりで教えちゃって、自分の勉強あんまり出来なかったし。
ちょっと期末の点数悪かったし。
だけど……合宿、すごく楽しみにしてたから。
そんな夕の悲しい顔は見たくなかったから、精一杯サポートしてあげたかったんだ。
「おかげでいい経験が出来たぜ」
「…良かったね」
その中には、潔子さんとのことも含まれてるんでしょ。
そう思ったら、今までで一番胸が痛んだ。
苦しくて息も出来ない。
一瞬動けなくて、今まで順調に打ち合っていた羽根は、ぽとりと地面に落ちてしまった。
「おっし! 先制点ゲット! 春華、顔貸して」
言って夕はポケットから筆ペンを取り出した。
羽根付きで羽根を落としたら、顔に墨を塗られる。
そんなこと私はすっかり忘れていたのに、夕は律儀に筆ペンまで用意してたらしい。
触れる筆の先がくすぐったい。
じぃっと顔を見られるのが恥ずかしくて目をそらす。
「よーし、次はお前からな」
そう言って夕が落ちた羽根を拾い上げて、私に手渡す。
軽く触れた指先がいやに熱く感じる。
手の平に乗せられた羽根をじっと見つめて動かない私を急かすように、夕が背中を思い切り叩く。
「ほら、続き続き!」
「……本気でいっていい?」
「どんとこい! どんな攻撃も拾ってやるぜ!」
リベロのスゴ技見せてやる、なんて言っちゃってさ。
楽しそうに構える夕を見てたら、腹立ってきて。
私は思い切り高く投げ上げた羽根を、渾身の力で打ち込んだ。
切り裂くように空を切った羽根は、夕の羽子板をかすめて地面に落ちた。