第5章 葵の花
夜「おー、思ったより降ってんな」
春華「そうだね、少しだけど積もってるから気をつけなきゃ」
たわいのない話をしながら。
電車に間に合おうと走る社会人。
ワイワイと騒ぎながら通り過ぎていく大学生達。
春華「ちゃんと、受かるかなぁ…」
夜「受かるかなぁ、なんて甘いこと言うから落ちるんだよ。
受かる以外の選択肢なんて逃げだろ?
それを用意するから負けんだ」
ニヤリと自信ありげな顔してそう言うから
私の不安も吹き飛ぶ。
それに、と何かを続けて視線をどこかに向けたまま立ち止まる。
視線のその先にあるのは
春華「ウェディング、ドレス……」
純白の聖なるドレス。
「春華」
ハッとしたように視線を戻すと
まっすぐにこっちを向いて、口をパクパクと動かしている。
夜「……まだ、すぐに一緒になろう、なんて大それた事、言えないけど
春華のあれを着てる姿を一番近くで見れたら、って思ってる」
さっきまで自信ありげな顔してたのに、
今は少しだけ不安が残る歯切れの悪い言い方だ。
春華「じゃあ、二人でちゃんと受からなきゃだね。
一年遅れなんて遠回りできないよ」
一瞬だけ、きょとんと目を見開いて、ククッ、と小さく笑う。
夜「おう、頑張ろうな」
逃げ道は作らない、目的があるならまっすぐに走り続ける。
そんな衛輔くんのあんな顔は初めて見た。
けどらいつも通りの笑顔になれる
彼とならいつまでも一緒にいられる。
いつかと、未来に思いを馳せて。