第5章 嫉妬
幸村は強い。
それこそ、ボクがイップスに陥らなくても。
「トリプルカウンターを全部返されるとキツいね...」
ボクの武器は攻略されてしまっている。
じゃあ、彼にどうやって勝てばいいんだ...?
彼との試合での心の穴。
それは、大袈裟に表現すれば死を意味する。
ボクの触覚が、失われ始めた。
「!!」
ボールを持っている感覚も、ラケットを握っている感覚もない。
これでは、ボールを打つことは出来ても、加減が出来ない。
「ふふ、そろそろ触覚が無くなってきたみたいだね」
そしてそれは、幸村にも当然のようにバレていた。
ああ、もうこの悪夢から、抜け出すことは出来ないのだろうか。
「くっ...」
「触覚が無くなったところでボールは打てるだろう?まあ、1つ失ったら後は崩れたように...」
「っ...!!」
視界...が...
「他の感覚も失い始めるけどね」
くそ...
感覚もなく、見えなければ打てない。
耳はまだ聞こえているが、音だけではコートの位置が分からない。
ボクが今、どこにいるのかも分からない。
絶望的だった。