第1章 はじまり
同情"してくれる"?
どういう意味だ...?
「私は、可哀想な子になりたくてテニスをやめた訳じゃないの。だから、同情して、君は悪くないよって、そう言われても困るのよ...」
苦しそうに彼女は言う。
違う。
君のそんな顔が見たいんじゃない!
「...ボクは、たとえ君が悪くても、君にテニスを続けて欲しいと、そう思ってるよ」
「え...」
彼女が欲しいのはきっと慰めの言葉じゃない。
自分は赦されたのだという赦しの声だ。
そして、彼女を必要とする声だ。
「君がマネージャーの仕事をしてる時、とても楽しそうだった。君が部員と話をしている時の笑顔は、嘘なんかじゃないだろう」
「っ...」
言葉に詰まる彼女。
そうじゃないと言いたいが、図星だから言えない。
そんな所だろう。
...ほら、やっぱり優しい子じゃないか。
「ボクは何も知らないから、君が悪くないなんて言えない。でも、そんなに楽しそうにマネージャーをしている君が、テニスから離れなきゃいけないなんて、そんなことは絶対に誰にも言わせない」
「それは不二くんが私の事を知らないから言えることであって...!」
「うん、君のこと何も知らない。だから、教えて?」
「え...?」
「マネージャーの仕事をして楽しそうに笑う君が、嬉しそうに部員の成長を見る君が、...テニスを好きな君が、本当の手塚さんなんだろう?」
「そ...れは...」
彼女がわかりやすく狼狽えた。
さぁ、反撃の時だ。
「じゃあ、勝負の続きをしようか」
君が"手塚優衣"であった時、それがボクの勝った時だ。