第1章 先生好きだよ
「先生!持ち物交換しようよ!」
「交換?」
「私は大人になるから先生の煙草1本頂戴」
「駄目だ」
「未成年だから?」
「煙草は吸わない方がいい」
「その1本だけ!」
「駄目だ」
「じゃあ目を瞑ってて」
先生の手から火のついた煙草を盗む
「やめろ!」
そんなの聞きっこないよ
ひと吸いしてみた
「ゲホッゲホ」
「大丈夫か」
慌てて背中を摩ってくれる
「にっが」
「だから駄目だと言った」
「思ったより苦いしバニラじゃない」
「きちんとここを咥えてみろ」
煙草のフィルター部分を差し出してくる
「咥えるだけだ、吸うんじゃないぞ」
今更間接キスにちょっとドキっとしながら咥えると
甘いバニラの味が口に広がる
「あまーい!凄い!」
「だろう」
初めて共感できた
先生と同じ気持ちになれた
これが最初で最後。
その後も話をたくさんした
山伏先生がしている筋トレの内容
色々な煙草を吸っていた事
屋上は先生の居場所だった事
気が付くと陽が傾き
別れの時は近付いていた
「そろそろ帰るね」
「気を付けろよ」
「先生お願いがあるんだけど」
「何だ?」
「1度だけあだ名で呼ばせて!」
「あだ名?」
「さっき思い付いたの」
「んーじゃあ1回だけな」
「いくよ!」
「あぁ」
「おからちゃん!!!!!!」
先生も私も吹き出した
おからちゃんなんてあだ名が似合う顔じゃないもん
もっとキリっとした人なのに
出てきた言葉はあまりにも可愛らしくて
「酷いあだ名だな」
「えー可愛いじゃん」
「もう2度と呼ばれないがな」
「そこがミソだね」
「そうだな」
別人のようによく笑う
もっと早くからこんな関係になりたかった
そんなたらればに意味は無いんだけど
「じゃあ先生」
「元気でな」
「幸せになってね」
階段を1段ずつ降りる
王子様、大好き、彼、大好き、先生、大好き、先生、ただの、先生。
心で唱えつつ1段ずつ思いを置いていく