第3章 後編
ユーリが森に入って暫く経つと、古びた礼拝堂が見えた。
そしてその礼拝堂の扉の前にいる、ローと1人の女。
ユーリは息を切らし、その場に立ち尽くした。
「…あら?」
そんなユーリの存在に気が付いたのか、声を上げる彼女。
その女性には身に覚えがあった。
「確か契約破棄されたっけ聞いたけど?未練でもあるのかしら?」
そう艶笑しながらローの腕に自らの腕を絡ませているのは、一番最初に行った火の礼拝堂を管理していた国の王女。
どういった経緯か、最初から決めていたかは分からないが、ローは新たな契約者に彼女を選んでいた。
「…い、いえ…少しだけ話を…」
ユーリは新たな契約者が、まさかあの王女とは思わず少し動揺した。
しかしここまで来た以上、何もせずに帰るわけには行かない。
ユーリは視線をローへと向けるが、ローは口を開くどころか、視線すら向けていなかった。
「気の毒だけど、自分で自分の身すら守れないなら、足手まといでしかないのよ」
そう王女が言った瞬間、ユーリの横顔を鋭い光が走った。
突然のことで驚き固まったユーリ。
それと同時に、唸り声のようなものが聞こえてきた。
声の方へと視線を向ければ、魔物が数匹死んでいた。
どうやら彼女が倒したらしい。
「…やっぱり、私は足手まといだったんですね」
その光景を見て、ポツリと呟いたユーリ。
ローは、何も言ってくれなかった。
「…もう遅いし、帰りましょう」
その様子を見ていた王女だが、これ以上付き合ってる暇はないとローをせかした。
「帰りの魔物はある程度倒してあげるけど、死にたくないなら早くここから離れることね」
…本当は、死んでもらっても構わないけど。
王女は心の中でそう付け加え、ローの手を取り来た道を戻り始めた。
ユーリの隣を横切る瞬間も、ローは一切ユーリのことを見ていなかった。
そのことにユーリは絶望の表情を浮かべ、暫くそこに立ち尽くす。
だが、ユーリは知らない。
ユーリが呟いたあの言葉に、ローが一瞬辛そうな表情をしたのを。
それを知ってるのは、隣にいた王女だけだった。