第2章 中編
2人は風の礼拝堂で儀式を終わらせると、近くの宿へと向かった。
この礼拝堂は魔法学校から一番離れているため、また戻るまで数日は掛かるだろう。
ローは刀を壁に立てかけると、ソファーに座り込みそっとため息を吐いた。
ユーリは取り合えず疲れたらしいので風呂へと向かった。
僅かに聞こえるシャワーの音。
ローはそっと瞳を閉じると、先ほどの光景を思い出していた。
叫び声が聞こえて来た時、一瞬だけだがユーリから強力な魔力を感じた。
だけど今は、特に何も感じられない。
…一体何なんだ
ローは暫く考え込んでいたが、答えが見つかることはなかった。
本人さえ分かってないのだからそれも仕方ないだろう。
…いや、それよりも、問題は…
ローは閉じていた瞳を開くと、刀へと視線を向けた。
残された礼拝堂は後1つだ。
そしてそう時間が経たない内に、闇の魔物も眠りから覚めるだろう。
もう、迷っている時間も、名残惜しむ時間も、残されていなかった。
「…あ、あの」
ローが考え込んでいると、不意にユーリから話しかけられた。
視線を向けたら何時の間にかローの近くに立っていたユーリ。
近くに来るまで気づかなかった。
それはつまり、ユーリを心許している相手としてローが認識している証拠なのだろう。
…早く彼女を手放さなければ
「…おまえとの契約だが…」
「こ、これ!良かったら貰ってください!」
ローは今度こそ覚悟を決め契約破棄の話をしようとするが、ユーリの言葉と被ってしまった。
2人とも暫し黙り込んで見つめ合う。
そしてローはユーリから差し出された手を見ると、そこには数枚のコインがあった。
ローは驚いたような表情を作ると、ユーリは恥ずかしかったのか半ば無理やり押し付けるような形で、ローにコインを渡した。
そして口早にここ数か月で彼女なりに見つけてきた、記念コインの詳細を話す。
ローが昔言ったことを、彼女は覚えていたのだ。
「あ…もし被ってるものがあったら捨ててくれて構いませんので」
そう苦笑する彼女。
そんな彼女の言葉が、行動が、表情が、ローの心に深く突き刺さった。
……あぁ、もう駄目だ…
ローはコインを握り締めた。