第1章 前編
「…トラファルガー・ロー。それがおれの名前だ」
ローと名乗った男は、その長身を屈ませてユーリの首筋に顔を近づけた。
「我が名を持って、ユーリを主とする」
ローはそう言った瞬間、なんとユーリの項辺りに思いっきり噛みついてきた。
「いッ!?」
突然の痛みにユーリは逃げようとするが、ローが抑え込んでいるため無理だった。
首が焼けるように熱い。
その様子を見守っている周囲の人間は、まだ動けないようだった。
そしてどれくらい経っただろうか、漸くローから解放された。
口元の血を拭いながら卑しく笑う彼に、周りの生徒たちは息を呑んでいた。
「…これで、契約完了だ」
ローはユーリの首元に触れながらそう伝えた。
ユーリの項に刻まれた魔法陣。
その魔法陣から文字のようなものが、首を一周するように刻まれていた。
まるでチョーカーか首輪のようである。
「必要があれば呼べ。その時は力を貸してやる」
ローはそう言うと、姿を消した。
ユーリの手元に舞い降りてきた刀。
禍々しい光を放っていたその刀は、ユーリの手に納まるとその光は消えていった。
ユーリは状況が理解できずその場に立ち尽くしていた。
そして生徒たちも漸く動けるようになったのか、ざわついた様子で何かを話しているようだった。
「トラファルガー・ロー。あの姿は、間違いないだろう…」
教師たちは厳しい表情で何かを話し合っていた。
騒然とする儀式の間。
ユーリはこの日、数百年に1度起こる出来事に巻き込まれてしまった。
彼女は、伝説の刀の主となってしまったのだ。