第2章 中編
「…へぇ、ここに人が来るの珍しいね」
ローが考え込んでいると、不意に聞こえてきた声。
それと同時に驚いたユーリの声が上がった。
ローは我に返り背後を振り返ると、男に捕まっているユーリの姿が目に映った。
いくら考え込んでいたからとは言え、全く気配を感じなかった。
ローは舌打ちをすると、刀を構え男を睨んだ。
「…その刀、もしかして英霊?じゃぁこの子が契約者かな?」
男はローが怖くないのか、クスクス笑いながらユーリの顔を覗き込んでいた。
「…てめぇ、何の真似だ」
ローは眉間に刻まれていたシワを更に深めると、殺気を放つ。
目の前の男に全く隙がない為、下手に行動するとユーリに危険が行く可能性がある。
「そんなに怒んないでよ。…おーい、マスター。珍しいお客さんが来てるよ」
そんなローを完全に無視してか、男は礼拝堂へ向かって声を上げた。
そして少し経つと礼拝堂の扉が開き、数名の男女が出てきた。
確かに国が管理してないと聞いていたが、誰かが占拠していたのか?
敵か味方か分からない連中に囲まれて、ローはこの状況をどうするか考えた。
取り合えず優先順位はユーリだ。
ローは軽く息を吐くと、マスターと呼ばれた男に向き合った。
「…英霊の存在は知っているだろ?そこの礼拝堂に用がある」
マスターと呼ばれた男を見た瞬間、ローは戦闘を避ける方向へ持っていくことにした。
彼の首元にある魔法陣と穴。それは水の礼拝堂に行く途中で見た、人工的に作られたものなのだろう。
どういった理由があってここにいるのかは分からないが、恐らくあの施設から逃げ出してきたのか。
よくよく見ると、周りにいる人間全てに魔法陣が描かれていた。
しかも、彼らから感じる魔力も高い。
ユーリが捕まってなければまだ良かったが、穏便に済ますしかないだろう。
今までの自分なら契約者の代わりなど幾らでもいるから、構わず刀を抜いていたが。
ローはそっとため息を吐いた。
話し合いなど好きではないが、ローは刀を一度鞘に納めると、男に事情を話した。