第1章 前編
ローとユーリは近くの町の宿屋へと向かった。
ユーリの調子も良くないし、ローも僅かしか魔力を補給しなかったので、今日は無理に移動することを止めたのだ。
ローに運ばれながらユーリは、少しだけ先ほどの彼女を羨ましく思っていた。
私がポンコツなせいで、他の人の力を借りないとローは本来の力を発揮できない。
彼女の手に触れて力を取り戻したロー。
本来は、それをしなければいけないのは私だ。
だけど、私は何も出来ない、ただの無力な人間だ。
その事実が、ユーリをかなり落ち込ませていた。
ユーリはローから宿屋のベットに降ろされると、鞘へ戻るであろうローへと視線を送った。
「……」
……あれ?
だが、彼は一向に鞘へ戻ろうとしない。
ただ鋭い視線をユーリへ向けているだけだった。
いや、まじで怖いんですけど。私は何かしたのだろうか。
…っは!?まさか死の宣告が!?今日のあの事件で遂に我慢の限界が来たのか!?
ユーリの表情は青ざめた。
それを無表情で見ているロー。
2人の間で、重い沈黙が流れた。
「……なぜ、あんなことをした」
そしてどれくらい時間が経っただろうか、ローが先に口を開いた。
あんなこととは、ユーリがローを庇ったことだろうか。
そんなこと、頭よりも先に身体が動いてしまっていたのだから、なんて言えばいいか分からない。
ユーリは返答に困りつつ、何とかあの時思っていたことを思い出しながら話し始めた。
「…何時も守ってもらってばかりで、申し訳なくて。あの時はローが危ないと思い、気づいたら身体が勝手に動いてました」
「…おまえは、魔物一匹すら倒せないと自覚してるよな?そんなに死にたいのか?」
「違います!ただ私は…」
ユーリは黙り込んだ。
確かに傍から見ればただの自殺行為だ。
だけど、守ってもらってばかりはもう嫌だったのだ。
何のために母は命を掛けて私をこの学校へ入れてくれたのか。
それは、1人で生きていけるように、強くなるためじゃないのか。
ユーリは彼からの鋭い視線から目を逸らしていたが、決意を決めたように再び彼へと視線を向けた。