第1章 前編
そして更に一か月が経った。
相変わらずローは魔物を簡単に倒しているようだが、気のせいだろうか、ここ最近少し様子がおかしい気がしていた。
第三者から見れば分からないかもしれないが、ずっと2か月間ローを見ているユーリは少しだけ違和感を覚えていた。
僅かに彼の動きが鈍っているように思える。
ユーリは魔物を倒し終わって手元に戻ってきた刀を見て、少し考え込んでいた。
……やはり聞いてみるべきなのだろうか
今回はまだ依頼が残っているので、宿に泊まる予定だ。
ユーリは近くの町へ向かうと、適当に宿泊施設を見つけて手続きを済ませた。
そして与えられた部屋に行くと、取り合えずベットに座り刀を見つめること数分。
ユーリは軽くため息を吐いた。
彼と出会って以降、まともに会話した覚えはない。
世間話なんて皆無だ。
だから、呼ぶときは緊張する。
ユーリは深呼吸すると、静かに彼に呼びかけた。
そして暫く沈黙が続いた後、現れたロー。
珍しく呼ばれた事を不審に思っているのか、それともただ機嫌が悪いだけなのかは分からないが、その表情はいつも以上に険しく見えた。
「戦い以外で呼んでしまってすいません、どうしても聞かなければいけないと思いまして」
ユーリは彼の鋭い視線から目を逸らしつつ言葉を続けた。
「…あなたは、契約主の魔力は必要ないのですか?」
ユーリの言葉で、辺りに沈黙が落ちる。
ローの表情は相変わらずで、何を考えているのか分からない。
言った、遂に言ってしまったぞ私。
さぁ、これで必要と言われたらどうする?
やっぱり契約主を変えると言って切り刻まれて終わりなのだろうか。
そんなことはないだろうが、ユーリは握りしめていた手に力を込めて、彼からの返事を待っていた。