第1章 前編
…あれ、どうやって呼べばいいんだ?
刀を手に持ったのはいいが、どうやって彼を呼べばいいか分からない。
刀を鞘から抜いてみても、出てくる気配はない。
もしかして軽く呼びかけるのか?
なんとも恥ずかしい気もするが、ユーリは小声でちょっと話したいことがあるんですがと、言ってみた。
…シーン
そして流れた沈黙。
まじかよ、聞こえてないのか?もしくは無視か?
ユーリは頭を抱え込んでため息を吐いた。
「……なんだ」
そして他の方法を探していると、漸く本人が目の前に現れてくれた。
いきなり現れて驚いて思わず仰け反ってしまったが、何とか体制を立て直した。
目の前に立つ漆黒の衣装を身に纏う彼は、怪訝な表情でユーリを見ていた。
「急に呼んですいません。どうしても聞きたいことがありまして」
ユーリは彼からの鋭い視線にオドオドしながら、先ほど考えていた内容を彼に話した。
すると気のせいだろうか、彼に刻まれていた眉間のシワがどんどん深くなっていくような気がした。
「お前を主にすると、おれは言ったよな?お前に拒否権はない」
「い、いえ、だから…私よりも適任者は沢山いるはずでは?」
「こいつがお前にしろとうるせぇんだよ。今までそんなことなかったんだがな。取り合えず、お前はおれの言う通りにすればいい」
手に持っている刀に視線を送りながら、そう伝えてくるロー。
その刀には何か意思でもあるのか?
というか完全に主従関係が逆転してないか?
言う通りにするだけならば楽でいいかもしれないが。
ユーリはグルグルと考え込んでいると、話はそれだけかと言って彼はさっさと消えてしまった。
再び訪れた静寂の空間。
ユーリは彼との今後の関係性が心配になった。
どう考えてもコミュニケーションが取りづらいんだが。
ユーリは再び手元に戻ってきた刀に視線を送ると、そっとため息を吐いたのだった。