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アネモネの夢

第1章 アネモネの夢00~50


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彼女の存在を知ったのはつい数か月前だ。
入社して既に三年経つと聞いたが、僕はその日まで知らなかった。すらりとした背丈、すっきりと纏められた髪、妖艶さを秘めた出来る女性の面立ち。
彼女がさっそうとロビーを抜けて秘書課に入っていくのを見て、彼女しかいないと思ったんだ。
ただ、課も違えば彼女と共通の知り合いもいない。僕は彼女と知り合うためにまず、自分の課に所属する彼女の同期を探した。
そこから徐々に知り合いを広げ、つい先日漸く彼女を含めた女性たちのグループを食事に誘うことに成功した。
その日の彼女は照れているのか僕が話しかけても他人行儀、なかなか初心なのかその席では終わる頃になってもほとんど話をすることは出来なかった。
会話を持ちかけても端的な返事のみでちっとも続かず、徐々に慣れてもらうしかないかなと考えて翌日も食事に誘いに行ったのだ。
しかし、彼女は僕の事を拒絶し、あまつさえ顔が良いだけの女性なら誰でも良さそうな男に心を許したかのような顔を見せる。
信じられない思いだった。話しかけた時間が朝の始業前だったのが悪かったかと、わざわざ仕事が終わる時間を待ったのにその男と出かけると言う。
彼女をなんとか魔の手から救わなければと、彼女の同期に声を掛けたが食事会をした時とは違い、彼女は望んでいないからと皆話を聞いてくれない。
どうしてかはわからないが、たぶんあの男がその顔と手管で彼女の同期たちも丸め込んだんだろう。
僕はなんとかしたくてあがいたが、確実な情報を持つ彼女の友人たちは全く取り合ってくれない。何とかしたくて、彼女と同じ課にいる女性に声を掛け、彼女の望みを叶えるのを代償に彼女が仕事を上がる時に連絡を貰うように頼んだ。

『彼女、今からロビーに降りるようですよ』

ピロンッと音がして、メールの着信を告げる。内容を確認すると頼んでいた女性からのもので、彼女――藍羽百合が課を出たという連絡だった。
時計を見れば昼休みがちょうど開始したところで、僕も彼女を捕まえに仕事を一旦切り上げて課を出る。
そうして漸く捕まえたと思ったのに、どれだけ言い募っても嫌がるばかりで逃がさないようについ彼女の手を掴む力が強くなる。
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