第1章 アネモネの夢00~50
やったーと喜ぶ百合の頭を撫でれば、気持ち良さそうに目を細める姿が猫だな。弁当箱も買っておいてるから仕事に持って行くのに作るのは交代すればいいか。
弁当の具で食べたい物はあるかと聞いてみたら逆に俺は何が食べたいかって聞き返された。俺は…ううん、考えた事ないかもしれない
「市ちゃんみたいに美味しく作れるか不安ですが」
「市の腕は最早妖怪だと思え」
「妖怪って」
例えが酷いとクスクス笑っている百合を見ていると、ふと嫌な視線を感じてそちらを見れば、妙な表情で此方を見る男が視界に入った。
特徴からして例の男か?だが何でこんな場所にいるんだと思っていると、俺の表情に気付いた百合が首を傾げて名を呼んでくる
いや、何でもない。気のせいだと首を横に振って口に食事の残りを放って容器を片付けた。
「い…っ」
「どうした?」
「いった~~!睫毛が目に入った」
「見せてみろ」
ぼろぼろと涙を流す百合の顔を掴んで、顔を近づけて眼球を見てやれば短い一本を見つけて取って…って、顔が真っ赤だぞ。
「~~~っ!!雹牙さんのイケメン!」
「褒めてるのか貶してるのかどっちだ」
「顔が近すぎて眼福でした!」
「だからどっちだ」
阿呆、と言いながらぐりぐり頭を撫でてやればその場で固まる百合にクククと笑えば、狡い狡いと連呼され一体俺にどうしろと?
「もう、睫毛取ってくれてありがとうございました!」
「おう、夕食の材料買って帰るぞ」
「今日は何でしょうか?」
「現金だなお前も」
「美味しい物は別枠ですよ?」
ぎゃいぎゃいと、言い合いながら駐車場に向かって2人で歩いて行く姿を。
人知れず、男は悔しそうに唇を噛んで睨み付けていたのは雹牙しか知らない光景だった。