第1章 アネモネの夢00~50
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市ちゃんを救出してから、否、市ちゃんに拾ってもらってから、私は人生初のモテ期を体験しております……!
いや、冗談じゃなくね。昔からおじさんたちには受けが良いので、上司だったり大学時代は教授でも御大クラスにはモテてはいないけど可愛がられてる自覚はありました。
でも同級生とか歳が近い男性にモテることってまずなかった。元々女性にも微妙にテンポがズレてるところがあるらしく、浅い付き合いはともかく深いお付き合いはほんと、ごく僅かしか続かないような状況だったんだけど。
「藍羽さん、今夜もどう?」
ここ三日ほど、しつこく、しつこく、仕事が終わった後の食事に誘ってくる人が居る。
ちなみに、モテ期なるものに入ったからといって性格は変わらないので、私はよく知らない人に誘われた食事には行かない。
私から誘ったならまだしも、誘われたのに行くのは非常にストレスなのだ。
だからお断りしているのにこの人は私と仲の良い同期の女子まで巻き込んで、昨夜はとうとう飲み会に参加させられた。
他の人は一度丁寧にお断りしたら解ってくれたのに、この人は人見知りやただの照れだと思ってるらしい。
「前から度々お誘い頂いていますけど、その度にお断りさせて頂いております。何度誘って頂いても貴方と食事に行く気はありません」
仕事が始まるというのにしつこく追いかけてくるのが鬱陶しく、足を止めて振り返ると無表情で思っていることをはっきりと告げる。
にこやかにしていた表情がピシリと固まるが、いい加減湾曲にお断りするのも疲れてきた。
今後を考慮してのチョイスだったが、煩わしいことこの上ないのだ。
「僕のどこがダメなんですか!」
「……それをお伝えすれば今後は関わらないで頂けますか?」
「そ、れは……」
「ちなみに、今は就業開始直前です。貴方に呼び止められてから、お断りしているのに何度も食い下がられて私は業務妨害を受けております」
告白もされていないはずだが、何故かそんな事を聞かれて疲れてきた私はうんざりしながらそう告げる。
すると、時計を確認した彼は我に返ったかのように謝罪を投げ捨て、自分の課へと競歩の勢いで去っていく。
その後ろ姿に殺意を抱いたのは、致し方ないと言いたい。