第1章 アネモネの夢00~50
03
車に乗ろうとした時だった、ヒュっと風を切る僅かな音に手を出せば。掌に収まった物に思わず眉が寄る。
飛び込んで来たのは直径4cm程の大きさの石。車か人に当たったら大惨事だぞと周囲を睨み付けるも、犯人らしきものは誰も見当たらず
偶然石を受け止めた瞬間を見ていたのか駐車場の管理人が大丈夫かと声を掛けてきてから藍羽も何かが起きたのだと気付いた様だ
「石?大丈夫ですか?」
「大事ない、偶然受け止めたから車にも被害はないしな」
自分の能力ならば受け止めるのも苦ではないが、心配させる事でもないので大丈夫だと言って車に乗りシートベルトを掛け
妙な視線は特に感じない、頭を下げる駐車場の管理人に片手を振り出発してから藍羽の住むマンションまで送って行った。
「最近、妙な事は起こってないか?」
「妙、ですか?」
「否、何も変わらないのであればいい」
となると狙いは俺か。
目的地に到着したあと、お市様が寂しがってた事を伝えると時間が出来たら連絡するとお礼を言われ、マンションに無事入って行くのを見届けてから家に向かって車を走らせた。
織田邸の駐車場に車を停めてから家に入れば、もう既に帰宅していたお市様達が食事の片づけをしていて「ただいま」と小さく零すと妹の柔らかな笑顔が出迎えてくれる
「デート終わったの?」
「誰がデートだ、誰が」
「雹牙が」
「おい黒羽」
何吹き込んでやがると睨むが長年の相棒はクスクスと笑って、違うんですか?じゃない。こいつも性根が悪くて本当に疲れるな。
ピクリと、何かに気付いたお市様が俺を見る。それに気付き2人で視線を戻せば、あれ?と疑問の声が上がった
「雹牙、外で何かあった?」
この場合、下手に隠すと盛大に拗ねられる。
正直に石を投げられた事を話せばうんうんと頷いてどこかぽんやりと宙を眺める我が主に。何が視えるのだと問えば
「軽そうな男性?雹牙に悪意たっぷり」
「ほう?俺に目を付けるとは随分と死にたい馬鹿が居たものだな」
「あ、雹牙にお願いしていい?定期的に百合ちゃんの様子を見て欲しいな」
「は??」
何で藍羽の名前が上がるのだと顔を顰めれば、彼女と縁がある馬鹿者じゃないかなと首を傾げられても反応に困る。傍から見れば妹のお願いなんだが俺達からすれば大事な主命だ。