第1章 アネモネの夢00~50
『いやぁぁあぁぁっ!』
――がしゃーん!
『ぐわっ! な、何をするッ! お前ら、俺が誰だとッ!』
『お前が誰であろうと、お市様に手を出す輩を許しはしない』
『市っ!』
『は、晴久っ!』
ぐっと、息が詰まったような音が近くで聞こえ、少し離れた所で市ちゃんと晴久君が会話する音が聞こえてくる。
目の前で見ているわけではないからはっきりとは分からないけれど、市ちゃんの悲鳴に一瞬のアイコンタクトで窓ガラスを割って中に飛び込んだんだろう。私の時と同じように……。
男は床に叩きつけられているのか、果てまた片手で持ち上げられているのかは定かではないけれど晴久君の宥めているような声がチラチラと聞こえてくるので無事に救出成功したらしい。
「なんか、雹牙さんと黒羽さん、それに晴久君も凄いねぇ……ビルの上走って、飛んで。かなり距離あるのに、SF映画に出て来るスーパーマンとかみたい」
「あー……ええっと、それは」
「あ、いいよ。別に言いたくない事を言う必要ないし。そういうことが出来るからって本人の性格が変わるわけじゃないし」
「……百合さんってかなり大らかって言うか、大雑把ですね」
「うん、大らかの方が言われて嬉しいから言い直さないで。大雑把な自覚はある」
こちら側のマイクはミュートにしているから、雹牙さんは携帯からこちらに音が流れているとは思わないだろう。
男は警察では生ぬるいとか言われていたからどうなるんだろう? あれだけの大財閥だから、きっと暗部とかもあるんだろうなぁ……。
正直、そちらの方は興味がないしあっても不思議はない程度にしか思っていない。つまり、現実味がないんだな。
こちらに戻ってくるという声が聞こえた所でアプリの通話を終了させると、昴君に通話で聞いていたことは内緒ね? とお願いしてみたけど多分早いうちにばれそうだと遠い目をしてしまった。