第1章 アネモネの夢00~50
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『市』
聞き慣れた声に振り向けば、少し離れた所に晴久が立っていた。どうしたの?妙に距離があるけど。
近寄ってみればその距離も縮まって、晴久の手を取ると優しく握ってくれて。何だか気恥ずかしくてぎこちない笑みになる。何と言うか恥ずかしいなあ。
ふと周囲を見渡せば、見た事も無い部屋みたいな事務所みたいな??何でこんなとこに居るんだっけ?今日は百合ちゃんのお家に行って、一緒にご飯を食べるつもりだったんだよね
『ねえ、晴久』
「晴久?」
急に、耳にダイレクトに聞こえた声に目を見開いて振り向けば。晴久と思ってた人物の顔が崩れて見知らぬ、ニヤついた男の顔に変わった。
薄暗い事務所の一室で、ソファに横たわり静かに眠る市の姿。
スタンガンを雑に放り投げた男は市に覆いかぶさり、長く真っ黒な髪に顔を近づけて息を吸い込む。甘い匂いが肺に充満し、嬉しそうに笑う男は身体をぴったりと市に押し付けて口先で肌を擽っていく。
「はる…ひさ?」
ぴくりと、彼女の発した名前に反応する。先日憎らしくも彼女と動物園に行き心と唇を奪った男の名だ。尼子の嫡男、憎らしい憎らしい男
自分の手の中に、手に入れたのに未だそいつを呼ぶか。悔しくなったのと支配欲に、市の耳に唇を近づけて囁く様に言葉を紡ぐ。
「晴久?」
びくりと、市の身体が跳ねる。だが男に圧し掛かれられているので動く事も出来ずに、市はゆっくりと瞼を開けた。
大きな漆黒の瞳が圧し掛かった男と視線が合い目を大きく見開いている。「おはよう」と声を掛ければ「だれ」と弱々しく返事が返ってきた。
「驚いた?ようこそ、俺の領域へ」
「あなた誰、市は、ぃ…っ」
「スタンガンを最大にして使ったからまだ起きないと思ってたよ。うん、でも結構堪能させて貰ったよ」
さあ、これからもっと君を堪能させてくれるよね?
自分の分身がズボンの中でいきり立つ、彼女の髪を舌で舐めると興奮が止まない、これをどんなに待ち望んでいた事か。
「いーやー!市をかえして!」
「うん、良い声だ。力も強いんだね?それに胸も大きいし揉み甲斐がありそうだ」
手紙読んでくれたかな?写真は喜んでくれた?
君の事を考えると眠れない夜が大変でさ、自分を鎮める事しかできないんだ。今夜から君を離さずずっと気持ちよくさせてあげるから