第1章 アネモネの夢00~50
「これ」
秘書課までわざわざ来て下さった雹牙さんに手招きされ寄って行けば、背後からニヨニヨと笑み崩れた一部の同僚の姿が目に映るけど無視!
何事かと問えば差し出されたのは織田家滞在中に私用だと渡されていたお弁当箱で、昨日も寂しいと思ったばっかりだったので嬉しくて満面の笑みでお礼を言えば以前と変わらず撫でられた。
それほど時間も取れないので、もう一度お礼を言って席に戻ると俄然やる気が出てきたので、この数日と違ってサクサクと仕事を熟していく。
お弁当箱の返却をどうしたら良いかとか考えながら定時を迎え、ほんの少し残業して本日の業務を全てやり終えると携帯が鳴った。
確認すれば市ちゃんからのラインが届いていて、内容は今会社前という文字に大慌てで帰社準備をして秘書課の部屋を挨拶をして出て行く。
某アイドルの早着替えもかくやとばかりに通勤着に着替えると会社を飛び出す。市ちゃんは社内には入らずに警備員が居る近くにたたずんでいて、周囲を見ても誰も居ない。
「市ちゃん!」
「百合ちゃん、ごめんね、急に」
「いやいや、それは構わないけど一人で来たの? 送って貰った?」
「ううん。ちょっと言い辛くて一人で来たの」
「えぇ!? それ、後からお説教のパターンじゃ……?」
「うっ……」
若干顔が青ざめたのは自覚はあるんだね、と思いつつまあいいや、一緒に怒られようと頷いて夕飯食べに行くかお茶をしに行くかと相談する。
帰りはちゃんとお迎え呼んでねと言いつつ市ちゃんと二人、数日振りにおデートです。忘れないうちにお弁当箱をお返しして、もちろん中はちゃんと洗ったので大丈夫。
ちょっと足を延ばして新しく出来たと噂のスイーツショップへ向かうことになったのだけれど、私はこの時点でもさっぱりと市ちゃんの後を付ける輩が居る事には気付いていなかった。