第1章 アネモネの夢00~50
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何と言うか、平穏が戻ったと言えば良いのか。今世は平和な筈だったのだけどな?
弁当を作る音が響くリビングに入ればお市様は弁当を作っていたので背後に立つと邪魔だと足を踏まれる
ここ最近のお約束として、いつもなら藍羽がツッコミ入れるがもうあいつの脅威は無くなり元の家に帰って行ったな。
無意識に頭を撫でる手が出るも、目的の者を探してるのに気付いて。その手をお市様に乗せてわしわし
「寂しくなったね」
「寂しい?」
この大所帯で人が減ってもそう変わらないのではと疑問に思うも。そうか、この妙な感覚が「寂しい」というのだろうか?
こてり、と首を傾げるとお市様は俺の分の弁当を持って来て、まて、2つもか?
「今日、百合ちゃんの会社に行くんでしょ?」
「あいつも己の弁当を持ってくるだろうが」
「あったらあったで雹牙が食べて下さい」
なら持って行こう、資料やパソコンを鞄に入れ、弁当を持って車に乗り込み藍羽の会社に朝一に着く様に車を走らせた。
藍羽が家に戻ってからは一番寂しがったのはお市様だろう。姉の様に慕い構って貰えていたから。
「寂しいか?」と聞いたら「雹牙もでしょう?」って言われた時に認めたく無かったものが己の底から湧きだす。
だが俺はお市様に忠誠を誓った身だからなと、この気持ちを嘲笑えば少し楽になった。
会社に到着してから秘書課に案内させてもらい、藍羽に弁当を渡すと。目を大きく見開いてお市様の名を紡ぐ
「市ちゃんのご飯だ」と満面の笑みで喜ぶ姿に心なしかほっとして頭に手を乗せた。
「雹牙君って藍羽さんの事」
「未だ妹感覚でしょうねえ、本人はそう言い張ってますが」
「罪づくりだね」
黒羽と松本は遠目で2人を観察しながら珈琲を啜っていると戻って来た雹牙に妙な物を見る目で見られ
何だと問われても2人は首を横に振って、さあ仕事だと立ち上がった。