第1章 アネモネの夢00~50
雹牙さんは私の態度を気にした風でもなく軽く頷くと店員を呼び、私の希望した物の他にもいくつかを頼んでドリンクを先に持ってきてくれるように頼んでいた。
ドリンクが来てグラスを持ち上げられたので、私も持ち上げるとカチンと合せられた。何に乾杯なのかわかんないけど、多分お疲れ様的なのかな?
促されて一口飲むとさっぱりとした口当たりのフルーツジュースが喉を擦り抜けていくのが気持ち良く、無自覚ににっこりと笑顔になる。
「……お前、幸せそうな顔して食べる口か」
「え? えーっと、そう、ですね。友人にはよくそう言われます。何食べてても幸せそうだそうです」
「まずくてもか?」
クスクスと笑われて反射的に頬が膨れてしまうが、伸びてきた手に宥めるように頭を撫でられて真っ赤になってしまった。
ナチュラルなイケメンってこあい……。あれか、市さんって妹さんが居るから慣れてるのかな、こういう子供っぽい反応は似合わないからしない方が良いんだけどプライベートモードはゆるっゆるなんです私。
恥ずかしくなって俯くと、丁度そのタイミングで料理と取り皿が運ばれてきた。誤魔化すように私が取り分けると、クツクツと笑っている雹牙さんに取り分けたお皿を渡して食べ始める。
一口食べた料理はどれも美味しくて、思った以上に食べれたけれどやっぱり一人じゃどのお皿も一つ完食するのは難しく雹牙さんが食べてくれて本当に助かった。
最後のデザートまで食べきって緩み切った私は、促されるままに席を立ってお店を出てから会計をしていないことに気付いた。
どうしようか迷ったけれど誘われた時に奢りだと言われていたから払うと言うのは多分失礼だろう。少し迷って雹牙さんを見ると視線に敏感なのかすぐにこちらを向いたので、目を見てお礼の気持ちを込めて口を開く。
「ご馳走様でした。すごい美味しかったです」
「本当にうまそうに食ってたな」
「えーっと、表情とかは判んないですけど、美味しいのは間違いなかったです。楽しかったですし」