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アネモネの夢

第1章 アネモネの夢00~50


26

それは最終的には私の油断だったんだと思う。
後輩がお使い先に忘れ物をしたと言い、取りに戻るから一人になるのはまずいしタクシーで帰って欲しいと言ったのだ。
一緒に戻るよと言ったのだが、次の仕事があるのだからと拒まれて結局、その後輩が大通りで捕まえたタクシーに乗った。
しかし、それは罠で空車と書いてあったはずのタクシーには飛ばされたはずの同期が乗っていて、慌てて降りようとした時には後ろから口を塞がれて薬を嗅がされていた。
そして今、気付いたら私はどこか知らないマンションの一室で、少し前まで外聞上では彼氏だった男にベッドに組み敷かれていた。

「こんな状況だってのに、お前は本当に可愛くないねぇ。ちったぁ恐怖に顔を歪めるなり、泣くなりすりゃあ可愛げもあるのになぁ?」
「悪かったわね」

目をギラギラさせて卑下た笑みを浮かべ罵る元カレを、私は無感動に冷めた目で見つめる。
鼻で笑ってやれば、苛立ちも顕に手を振り上げたがそれが降ろされる前に後ろから声が響く。
甲高いその声は最近どこかで聞いたなと思って、そういえばタクシーで自分を眠らせたのは飛ばされたはずの同期の女性だったと思い出す。

「叩くのは勝手だけど、私の計画に乗るって言ったんだからヤるのと殺すのはまだよ?」
「ちっ、わかってる!」
「それにしても、あんたって本当に神経が図太いわよね。秘書課配属当初から、どんな噂を立てられても蔑んだ目を向けられても素知らぬ顔で、いつの間にか秘書課だけじゃなく他の部署の先輩まで味方につけて」
「秘書の仕事は業務を円滑に回すための根回しもあるんだから、必然的に上司と仲良くなるのは当たり前だと思うけど……。そもそも、うちの会社は仕事に真摯に取り組む人間にとても優しいわよ?」

同期の女性の言葉に僅かに背筋がヒヤリとするが、仕事柄身についたポーカーフェイスをフルに活用して顔色を変えずに言葉を返す。
何か目的があるようだけど、まだ同期には余裕があるらしい。一体何を狙っているのか……。
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