第1章 アネモネの夢00~50
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営業にいた同期の女性が謹慎後、飛ばされてから数日が経ちました。
平和になったかと言えば、なったとこと逆に悪化したとこがあります。
平和になったのは社内の空気。前から彼女の言動と行動はチラチラと上司の話題に登っていたらしく、今回はトドメになったらしい。
異動が決まり、上司たちは祝杯をあげにいったとかなんとかって話は飛ばされた同期と同じ部署の知り合いが教えてくれた。
そして、悪化したのは私の周り。飛ばされた同期が謹慎に入って数日後からマンションの郵便受けに投函される封筒が増えた。
「あ、今日はカミソリ入ってる」
「貸せ」
「はい」
今日も就業時間終了に合わせて雹牙さんが顔を出し、私を伴って会社を去っていく。
最近の私は市ちゃんからの勧めもあって化粧の仕方を変えたので、なんか陰で色々言われてるらしいです。
雹牙さんとも噂が立っているらしく、興味津々の仲良い同期から事あるごとに質問攻めですが何もありません。
何かあるとすれば、すっかり妹ポジが板についたことくらい。
何かって言うと雹牙さんは特に頭を撫でられ、お小言頂いて、市ちゃんと二人並んで正座することもしばしば。
「……そろそろか?」
「こっちの、同期が送ってきてるっぽいのは大分焦れてるみたいですけど、こっちは何がしたいのかさっぱりですね」
「お前は本当に動じないな」
「はぁ……ただ実感がないだけですけどね。ほぼ接点がない同期でしたし、元カレの二股の相手じゃなければ顔と名前が一致する程度です。それも、職業柄の延長ゆえの」
手を差し出されて渡したカミソリ入りの封筒を開封した雹牙さんが、眉間にシワを寄せて呟くのに淡々と返したら呆れられた!
怖くないのかって聞かれると、まぁ、多少の怖さはあるんだけどこれだけきっちり守りを固めて貰ってると不安は覚えない。
自分が不用意な行動をしなければ、私は確実に安全だ。
そう思えるだけの実力を織田家の方々は見せてくれている。
そこに信頼があるので、動じることはないというのが正直なところだ。
素直にそう伝えれば、そうかと頷かれて頭を撫でられた。
そろそろ行くかと声を掛けられて、私は頷くと他の郵便物も纏めてかばんに入れると部屋を出る。