第1章 アネモネの夢00~50
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本日も麗しの姫様と同伴出勤です。あ、私が先に送ってもらってお三方お見送りの上、自分の席に行きますよ。
雹牙さんから午後には黒羽さんと打ち合わせで来るとの声を掛けられたので、社内ミーティングの時にそれを伝えてから自分の仕事に移る。
今日は他に用事がある先輩の代わりに社長付きなので、たぶん雹牙さんと黒羽さんが来た打ち合わせにも一緒に行くんだろうなー……資料ちゃんと見ておこう。
「藍羽さん、雹牙君と黒羽君が来たらロビーまで迎えに行ってきて」
「はい、承知しました」
お昼休みが終わり、受付から雹牙さんと黒羽さんが来たという連絡が来た。
作りかけの書類を保存して席を立つと秘書課の部屋を出る前にある姿見で身だしなみを確認し、大丈夫だと一つ頷いて外に出る。
この課の姿見はこの秘書課が設立された時に主任を任された方が、秘書は常に身だしなみを整え社長以下、社員の恥になることはしないことという方針のために置いたらしい。なるほどと思い、私は入社配属以来ずっと秘書課から出る時はこの鏡で身だしなみを整えている。
それはさておき、大丈夫だと確認が出来たところで外に出て一階のロビーに行くと、営業で外回りに出ていたのか最近お昼休みにいつも友人たちに交じっている同期の女性が雹牙さんへすり寄っているのが見えた。
「今日はお仕事何時までなんですか? 終わったらぜひ一緒にお食事を……」
嫌そうな雰囲気全開の雹牙さんをモノともせず、手を伸ばして腕にしな垂れかかろうとしている同期の女性に見かねて声を掛ける。
とても、同じ社員として恥ずかしいですよ、それ。大体今仕事中ですよね? 公私混同は絶対ダメだと思うんです。
「織田雹牙様、織田黒羽様、お待たせいたしました。お部屋にご案内いたします」
「ああ、すまない」
「ありがとうございます」
同期の女性の手が雹牙さんへ触れる直前に、そう割って入ればホッとしたような雰囲気になるお二人と酷く怖い顔でこちらを見てくる同期の姿に内心で肩を竦める。
この同期は以前からこういうところがあったと聞いたことがある。自分が思い込むと人の言葉を聞き入れないか都合よく解釈するらしい。