第1章 アネモネの夢00~50
まさかと思って女を迎えに行く振りをして会社に行ってみれば、男から見ても上等だと認めざるを得ない男と百合が親しげに出てくるのを見かけた。
二人がレクサスに乗り出て行くのを見て、あれが偽装や仕事かもしれないと慌ててタクシーを拾って後をつけた。
百合の仕事が秘書であり、その関係上付き合いで会合や会食などに行く事は百合の同僚から聞いたことがあったからだ。
「とにかく、まだもう少しお待ちください。きちんと報告書はお渡ししますから。もちろん、貴方が今後有利になるような内容のものを、ね」
「……くっ! もう長くは待てないからな!」
「わかっていますよ」
依頼主の男がつい最近の出来事を振り返っている間も何か色々話していたらしい探偵事務所の所長が、厭らしい笑みを浮かべ言った言葉に苦虫を噛み潰しながら答え席を立つ。
探偵事務所の所長は今回はサービスです、とレシートを押さえたので男は黙ったままその場を立ち去るために店を出る。
最寄り駅までの道を歩きながら、ふと自分はなぜこんなことになっているのかと自問自答した。
百合を強引に口説き落とした時には、直ぐに自分に夢中にさせれると思っていたはずだった。
しかし、今は……。男はそれ以上考えるのを拒否するように頭を振ると、辿り着いた最寄り駅から電車に乗り日常に戻った。