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アネモネの夢

第1章 アネモネの夢00~50


20

夕暮れ時の路地裏で、サラリーマン風の男が二人寂れた喫茶店に入っていく。

「おい、お前たちは何をやってるんだ!」
「おやおや、依頼されたことを熟しているだけですよ?」
「俺は素行調査と写真は頼んだが、未だにその報告はないじゃないか」
「ええ、まだ調査が完全ではないので」

店の隅のテーブルに座った男たちは片や不信感を顕に文句を言い、もう片方は目だけが笑っていない笑みでそれに対応している。
文句を言っている男の顔を百合が見ていれば、それが元カレであると気付くかもしれないがそこには誰もいない。
男を宥めている相手は、百合の素行調査を依頼された探偵事務所の所長だった。
所長は百合につけた部下が持ってきた写真に写った男女の顔を見て、過去の出来事を忘れて悪巧みを考えたのだ。
その悪巧みには依頼主の男も旨いこと口車に乗せて巻き込み、素行調査の報告書を先送りにさせている状態だった。
とはいえ、これ程に長引くとは思っていなかった男たちは主に依頼主の男の方が焦れ始め、こうして催促をすることになったのだ。

「もう、金は規定通り払う! 早く報告書一式寄越してくれ!」
「ダメですよ、そんなことしたら貴方は契約違反になりますよ?」
「何っ?! これは契約外だと言ったじゃないか!」
「そんなことを言いましたかね? とにかく、彼女は今とても重要な人物なんですよ。あの織田の宝と言われる妹君にとても近い位置にいるんです」

こんなに美味しい話はないでしょう? そう目を眇めて言う所長に、依頼主の男はぐっと口籠る。
男は百合と別れてから暫くは自分に擦り寄ってきた女に夢中だった。
自分を褒め、頼り、可愛く強請ってくるのが堪らなく男の心を擽り、満足させた。
だが、女が強請る物はどんどんエスカレートしていき、男の給料に見合わなくなってきていた。
それでも男には無駄なプライドがあるため買えない等とは言えず、とうとうサラ金に手を出してしまった。
百合の素行調査を依頼したのはそんな時だった。
自分のサラ金の原因であり彼女でもある女から、百合が有名な企業の秘書と懇意にしているようだと聞いたのは。
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