第1章 アネモネの夢00~50
01
織田の傘下にある小さな企業に軽い商談をしに訪れていた時、黒羽が俺の肩を叩いたかと思ったら顔を掴み視線を無理矢理移動させられ…おい馬鹿やめろ
視線の先にはここの社長の秘書?ああ、誰かと思ったらこの間の女か。ここの秘書だったのだな。
「お久しぶりです、藍羽さん。先日はどうも」
「お久しぶりです、先日はみっともない姿を晒してしまって」
「なんだ、ここの秘書だったのか」
先日、お市様が拾って介抱し世話を焼いた女は、表立ってはキャリアウーマンの仮面を被る有能な秘書だったという事か。
確か男に酷いフラれ方をしたと聞いたな、お市様に珍しくも殺気をまき散らして男の素性を調べてくれと言われ調べたが大した事も無い小物であった
じっと、女の顔を見つめて考え事をしていたせいか、隣に居る黒羽に肘で小突かれて正気に戻る。ああ、いや、考え事してたすまん。
徐に時計を確認すればもう直ぐ定時。社長にこの女を定時から貸してくれと願えば満面の笑みで許可された。
第一印象が雨の中で号泣していたせいか妙に幼く感じる女に、ぽんぽんと頭を撫でてから飯に付き合えと言えばきょとんとした顔で頷かれる
おい、黒羽なんだその含み笑い。無性に腹が立って蹴飛ばせば、軽くあしらわれながら先に帰ると逃げられた。手前帰ったら覚えてろ。
「夕食、ですか?」
「昼を食いそびれた、奢るから付き合え」
「ああ、はい」
メールでお市様に先に夕食を食べて帰ると連絡して、黒羽から来てたLINEを見れば「車は置いて行きますね」と、あいつ徒歩で帰ったのか。
「食べられないものはあるか?」
「いえ、好き嫌いは特に無いです」
「好きなものは?」
「えーっと…」
駐車場に向かい、黒羽と営業用に使ってるレクサスに乗り込み、何を食うかスマホで検索をする。
「イタリアンは食えるか?」
「はい、大丈夫です」
少し走ったとこに評判の良い店を見つけたのでそこに行くかと問えばこくりと頷いたので、さてまずはそこに向かうかと息を吐いた。