第2章 アネモネの夢51~99
「雹牙、もしかして……」
「ああ、お前、靴だけはフィッティングまでする専門店で買ってただろ。行ってきた」
「いつのまに……」
あんまりにもぴったりで、長年靴の微調整をお願いしている専門店のオーナーの顔が思い浮かぶ。つい最近も行ったばっかりで、その時ちょっと不思議なお手伝いはしたんだ、したんだけど!
思わず涙が零れそうになって必死に堪えてると両足履かせ終わった雹牙が立ち上がって私の手を取る。立てと言われて立ち上がると、ふらつくことなくしっかりと立てるし靴も違和感なんてどこにもない。
「古い物、新しい物、借りた物、青い物」
「それ……」
「お市様がな、こういうの着けると幸せになれるんだと言っていた。ドレスは買わないと言ったから靴くらいなら良いかと……」
「そんなの」
「好きだろう?」
好きだけど! とんだサプライズだ。涙が堪えきれなくなりそうでどうしようかと思ってたら、見上げてた雹牙の顔が近づいてきて目尻にキスされた。
また驚いておかげで涙止まったけど、丁度時間になってスタッフさんが顔を出したタイミングだったから恥ずかしい。いや、声掛けられたけど返事したの雹牙なんだもん。ほんと恥ずかしい。
「後でな」
「うん」
もう一度頬にキスされて、返事や動きがぎこちなくなったのは仕方ないの! 微笑ましそうにスタッフさんに見られるし、雹牙ほんと今日どうしたの?! 予想外なことが多すぎて驚きの連続です。
少しだけお化粧とか直して貰って、マリアベールを被せて貰って準備が出来た所に父さんが来てくれた。綺麗だって言って貰って漸くほっとした気がするのはなんでだろう。
父さんにお世話になりましたって挨拶して、嫁に行っても娘なんだからって言われてちょっと驚いたけど嬉しかった。
チャペルでのお式自体はリハーサル通りに滞りなく無事に終えた。身体に合わせて作ったタキシード来た雹牙は、控室で見た以上に神父様の前で見た方がかっこよくて顔に昇る熱は抑えられませんでした。