第2章 アネモネの夢51~99
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「なんでお前が緊張してるんだ」
「しないでいられないの! どう考えても、浮かれた母さんがやらかす可能性高いんだもん」
私は雹牙の運転で自宅に向かう車の中、想像すると怖すぎる母さんの行動に緊張がピークを迎えていた。
キィとブレーキの音がして車が家の車庫に収まると、先に運転席を降りた雹牙が助手席のドアを開けて私に手を差し出してくれる。
その手を取って立ち上がると車庫の入口から黄色い声が上がって、二人で驚いてそちらを見ると頬を染めた母さんが雹牙と私のことを見ながら浮かれた様子で小躍りして家の中へ駆け込んでいく。
「ちょっ、母さんっ?!」
「おい、百合!」
父さんに報告に行ったならともかく、そのままの勢いで携帯片手に親戚中に言い触らしに行ったら最悪だ! そう思ったら雹牙のことも忘れて私も駆け出していた。
後ろから驚いた雹牙の声が追いかけて来るけど、今はそれどころじゃないのごめん!
母さんの姿を見つけて駆け寄ると、やっぱり携帯を握ってどこかにメールだか電話だかしようとしてたから必死に揉み合って携帯を取り上げて漸く一息吐く。
キッと母さんを見たところでがっしと私の頭が鷲掴みされて、ギリギリと締まるそれに小さな悲鳴が上がった。こんなことするの雹牙しかいないよ!
「痛い痛い痛い! ごめんなさいっ! ごめんなさいっ! 痛いぃっ!」
「痛くしてるんだ。俺を置いていくな、流石に困る」
「お前も、せめてちゃんと挨拶が終わるまで猫が被れないのか」
「ごめんなさい、あなた……」
ギリギリと締められて必死に謝って漸く手が離れると、痛みを取る様に同じ手が頭を撫でていく。涙が零れたのは致し方ないです、自業自得だけど思わずじとりと見上げたら困った表情をした雹牙が小さな息を吐いて告げた。
うっ……そうだよね、ごめんなさい。しょんぼりと肩も頭も下げたら、もういいという言葉と一緒にまた頭を撫でてくれて漸くホッとする。
その横で父さんが母さんを叱ってるけど、内容が微妙。出来れば挨拶の後も言い触らすとか自慢するとか、そういうの止めて欲しいのに。頬が膨らんで拗ねた顔で両親を見てたら、チラリとこちらを見た父さんが苦笑したので諦めた。
よっぽど嬉しいんだろうなぁ……そりゃ、親戚中から私はまだ結婚しないのかってせっつかれまくってたら仕方ないんだけどさ。