第2章 アネモネの夢51~99
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「藍羽君、雹牙君が迎えに来てるからその辺でいいよ」
「え?はい、丁度終わったんで」
せかせかと雹牙が迎えに来る前に仕事を終わらせようとしてた時に、社長に声を掛けられて時計を見ると大体いつもと同じくらいの時間で。
終わった書類を社長に渡せば、1階のロビーにいるから、と笑顔で見送りされたのはいいが妙に社長の機嫌が良い、ご機嫌ですねと問えば雹牙と少し話が弾んだと笑って手を振られたのでそのままエレベーターに乗って1階に降りる。
「百合、終わったか」
「うん、待たせてごめ…ん?」
1階の出入口で、車の前で立つ雹牙の後ろ姿を見つけ、こちらに気付いた雹牙に声を掛けられるが。妙な違和感を感じて立ち止まる。まじまじと、その顔を見れば。顔は雹牙だけど、目が、瞳の紅がいつもより濃く感じて。立ち止まって怪しむ百合に雹牙がくしゃっと、苦笑いを浮かべた
「君には分かるか」
「その声、丹波さん?」
「よく雹牙じゃないって分かったな」
声まで雹牙と同じだったと戦慄する百合は、雹牙の姿のまま頭を撫でられて。どうしたのだと問う、まあ、雹牙の事なんだが、と微笑む。
「少しだけ出ないか」
話があると言われて、なんだろうと百合は頷いて。近くの公園に移動する事になった。定時の時刻だがもう季節は冬に近く、暗くなるのが早いなと感じながらベンチに座ると、いつの間に買って来たのか暖かい缶コーヒーを渡されてその気遣いや行動が妙に似てるなと百合も微笑む。
丹波は雹牙の姿のまま、ぽつりと百合に「ありがとな」と暖かい笑顔で微笑んで。
「あいつの事受け入れてくれてありがとうな」
「丹波さん、いえ、私は大層な事してませんよ」
「あいつ昔から忍根性ガチガチの頭の固い奴でなあ、真面目なのかグレてるのか半々だからこそ、里の者に奇異な目で見られたんだろう」
「里…」
ああ、そうか。忍だものね。丹波さんが実の父親だった時かと納得しながら、百合は話を聞く体制になる
「あいつ、自分で良いのか聞く時あるだろう?」
「はい…」
「鬼子だと疎まれ、何度も同胞に殺されかけて人間不信になってるとこで信長公の所に預けたんだ。
姫様に仕える様になってやっと元気になったと思ったら、今度は姫様や身内しか心を開かないときたもんだ」
「はぁ」