第2章 アネモネの夢51~99
それが何か思い当った頃に、雹牙さんがもう一度私の手を握って引き寄せて、指先に小さく口付けされて囁くように告げられる。
他のテーブルにはもちろん違うお客さんが居て、でも、皆それぞれが自分たちの世界で私たちを見てなくて、それで……胸がいっぱいになった。
はいって返事しなきゃって思うのに言葉が出て来なくて、名前を呼ぶけどそれ以上は全然喉が詰まって続けられなくて、代わりに涙が大粒で降ってきた。
雹牙さんが私の手を離してハンカチで拭ってくれる感触で今が現実だって思う、痛くないから夢かもしれないと思ったら反射的に私の頬を拭っていた雹牙さんの手を掴んで胸に抱き込んでいた。
ぎゅっと掴んで、俯いて、必死に嗚咽をかみ殺していたら困ったらしい雹牙さん、ううん、雹牙がいつもは言わないことを一杯言ってくれる。
「これからも迷惑かけるかもしれない」
「そんなことっ」
迷惑なんて掛けられたことないって思って慌てて顔を上げたら、雹牙が優しく微笑んでるから不思議と涙が止まって掴んでいた手が私の手ごと持ち上がって頬を撫でていく。
目尻に残っていた涙がポロリと零れて雹牙が持ってたハンカチにそのまま吸い込まれて、嬉しいのと泣き顔が恥ずかしいので私がはにかんだら雹牙がさっきよりもっと優しい顔で微笑んでくれた。
「泣きやんだか?」
「あっ……と、その、ごめんなさい」
聞かれて未だに手を握りしめてたことを思い出して慌てて手を離し、居た堪れなくて上目遣いに見ると雹牙と視線が絡んだ。
数秒、ふっとお互いに緊張が解けたみたいに笑い合って、デザート食べて帰ろうかと言ったらタイミング良くギャルソンさんがケーキを持ってきてくれた。
「おめでとうございます織田様。当店からです」
「あ、ああ」
なんか、可愛いけど豪華なケーキだと思って見てたら、すんごい笑顔で雹牙がお祝い言われてて私もちょっと恥ずかしかったけど嬉しかった。
だってギャルソンさんの説明だとこのケーキ、お祝いの為に特別に作ったんだって! それを雹牙と一緒に食べられるのが嬉しくて幸せで、満面の笑みで食べてたらなんか安心したみたいな表情してたのが少し可愛かった。