第2章 アネモネの夢51~99
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お休みが来まして、本日は物件を見に連れてってもらいます。なんか、晴久君から紹介されたんだって、もう建ってる所でリフォームして使うんだって。
「そういえば聞いてなかったが、古家とかは嫌だったか?」
「え?」
車で移動中に思ってもみなかったことを言われて、思わず雹牙さんの方を向いてぽかーんと口を半開きにして見つめてしまった。
信号が赤で止まった所で雹牙さんが私を見て、あんまりにも間の抜けた表情していたのか数瞬見詰め合った後、ぷっと吹き出された。酷い……。
思わずぷくっと頬を膨らませてそっぽ向けば視界の端で手が伸びて来るのが見えて、今日は何もせず降ろしたままの髪に指が絡まって撫でおろされる。
頬にかかっていた髪を耳に掛けられて、くすぐったくて首を竦めたら指先が頬を擽って膨れた所を摘まんでぷすっと空気を抜いてから離れて行った。
「百合が気にしないならいい」
「ん、よく、判らないけど。古い家にはその家なりの良さがあるし、リフォームするなら程度にもよるけど古すぎるわけでもないし、とりあえず雹牙さんと一緒に居られるならなんでもどこでも構わないよ」
「お前は」
「だって、最悪離れて暮らすとかも覚悟してたし。今がすっごく贅沢なんだよなぁって思ってたから」
正直なところを言ったら、なんか複雑そうな横顔になったけど信号が青になって運転中だからこっちは見られなかった。
多分、見られたら泣きそうな顔になってるから助かったかな。でも、ハンドルから片手が離れて私の投げ出してた手を取って、指を絡めるように握られて物件だっていう家に着くまでずっと繋がれてたからきっとばれてる。
家に着いたらかなり綺麗な洋風の家だった。前に住んでた人も改装したらしくて設備自体はそこまで古くはなかったけど、前の家が木造の良い建物だったから趣は残してあるんだって。
案内してくれたのはこの物件を管理、販売している不動産会社の人で建築会社も兼ねててリフォームにも対応してくれるんだって。
キッチンと浴室は改装して、他は傷みもほとんどなかったから壁紙を張り替えて貰うくらいでそのままで良いという話になった。
ついでだから家に合わせた家具とか食器類も見ていこうって話になって、家具屋さんとか食器屋さんを見に行ってあれこれと相談しながらカーテンや食器棚なんかのオーダー物は雹牙さんがさっさと注文してしまった。