第2章 アネモネの夢51~99
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「黒羽、雹牙。ちょっといいか」
昼休み、声を掛けられて振り返ると神妙な面持ちの晴久が立っていた。何かあったのかと問えばここじゃ少し話しずらいと。
なら人の少ない休憩室にするかと3人で移動し、ソファに座ったところで晴久は手を合わせて頭を下げた
「悪いお前等、市にプロポーズしていいか?」
「まあ、念願でしたものね…」
「長い事待ったな」
「いいのか?市が織田から出ても」
「「あ」」
そうだった、結婚イコール家から出るのだった。その事をすっかり失念していたと苦笑いを浮かべれば半目で呆れられて。
お前等市から離れたらどうなるんだと言われれば。今まで考えた事無かったので黙り込む。正直、お市様が居ないという環境が想像できない。会いに行こうと思えば遠くはないが。
真剣に唸っていれば大丈夫かと聞かれ、いや、正直大丈夫じゃない。だが反対するわけにもいかないと項垂れれば、最近やたらと生き生きしている昴が休憩室にやってきて首を傾げる。
「晴久さんプロポーズですか?」
「よう昴。元気そうだな」
「んふふ、絶好調です」
最近妙に機嫌が良い昴は彼女できちゃったと幸せオーラを滲ませてるから何かあったのかと問えば、百合の後輩の見舞いに行って可愛い子見つけた?お前は見舞いしに行って何やってんだ殴るぞ。
「え、お市様家出ちゃうんですよね、やだなぁ」
「お前等その忍根性の逞しさどうにかならねえのか」
「だって、何十年お市様に仕えてると思ってるんですか」
俺達の言葉にふむ、と何かを考える仕草をする晴久は何かに気付いて顔を上げると、お前等うちの近くに来る気はあるか、と
ああ、尼子の近くに引っ越して来いって事か。黒羽も理解したのかこくこくと頷くが、問題は相手か。
己の我儘に着いて来てくれるか、不安な気持ちが己を蝕む。俺は何て我儘なのだろうか
相談してみよう、そう言って席を立てば「自分の恋人も大切にしろよ」と声を掛けられたが、正直どうしていいか分からない。
久しぶりに、妙に気分が沈む感覚に溜め息を吐く。考え過ぎない様にと黒羽に苦笑いで肩を叩かれ窓の外を見つめた。
「百合」
「ん?」