第1章 アネモネの夢00~50
07
仕事が終わり、今日は藍羽のとこには黒羽が行くと見送って。自室で身体を休めて居たら、カチャリと部屋の扉を開けて市が顔を出した。
「どうした、お市様」
「雹牙が居たー!」
「ぐえっ」
ぼすんと身体の上にダイブされて思わず潰れた様な声が出た。そのまま俺に懐いたお市様はひとしきり甘えた後、くっついたまま顔を上げたので鼻を摘まんでやる
何か用か?そう呟けば、「んー」だの「あー」だの唸り声が響いて来て、一体どうしたお前。
「百合ちゃんの事どう思いますか」
「藍羽?何だ急に」
「だって…今の世は昔より平和だよ?兄妹として折角生まれたのに結婚しなきゃ勿体ない…」
「俺はもう29だぞ、お前は自分の事を心配したらどうだ?」
「市に相手が出来ると思う?」
「では言うがお市様が嫁に行く前に、俺も嫁を取る気は無い」
「にゃああ!市が弊害かぁ!」
しくしくさめざめ、人の上でいじけ出した主の頭をぽすぽす叩いていると更にくっ付いて来たので無視して手に持っていた雑誌を再び広げる。
俺が結婚、ねえ…
お市様としては可愛い嫁の1人でも連れて来て欲しいんだろうが。前世独身を貫いた忍の身としては激しくどうでも良いというか。己に合う嫁を探す前にお市様が恋人を作れ
本人気付いてないだけで今世でも結構見合いの話が来てるんだができれば好きな相手を見つけて欲しい。
藍羽は…何と言うか、どことなくお市様に似ていると思う。
表立っては仕事をバリバリこなしているがプライベートでは天然だろうな。元彼とこじれた原因も無意識に一線を引いていたのであろうな。
「お市様そっくりだと感じている」
「へ、市?」
「妹みたいだと言えばいいか?」
「そか、百合ちゃん妹みたいかぁ」
恋愛感情はあるかと聞かれるも、まだ会ってだいたい数日の付き合いだぞ。黒羽の反応が変だな、何だアイツ本当に。
まあ、年の近い女としては初めての女友達と言えるかもしれんな、藍羽はどう思ってるか分からんが。
ならいいや、と再びごろごろ転がるお市様は随分と藍羽を気に入ってるのか「次いつ会えるかなー」と零していて
俺としてはいい加減伴侶の1人でも見つけて欲しいんだかな?前世独身を貫いたお市様?