第2章 アネモネの夢51~99
なんか、慌てて駆けつけてくれる気がする。思わず苦笑しながら居場所を伝え、携帯を置くとじっとりとした目で私を見る新人さん。
「ああ、そうだ。さっきの指輪もしてないのにって言葉ね。私と雹牙さん、まだ付き合い始めたばかりなの。私、根本的にアクセサリーとかする習慣がなくて、彼が浮気するとか思ってないから考えてもなかったわね」
「そんな強がり……」
「強がり? 本当にそう見える? 私、物なんかより大事なモノ貰ったつもりだから、それ以上欲しいとか思い至らなかっただけなんだけど」
「……なんで、あなたなの?」
「それは私も知りたいわね」
笑顔で返したら何かを呟きながら彼女は俯いた。ただ、肩が震えていたからそっとハンカチを差し出したら戸惑いながらも受け取ってくれた。
数十分後、雹牙さんが店に着いたらしく部屋の場所を尋ねてきたので伝えれば、数分もしないうちにノックの音と共に姿を現した。
新人さんに見向きもせずに私の所に来て、いわゆる顎クイをしてくださったのでガン見されてますよ。少しして、驚きが悔しさに変わったのか睨んできたけど、直ぐに諦めたように小さくため息を吐いていた。
まぁ、そうだよね。私の無事を確認してすごくホッとした優しい顔して私見てるもん。見られてる私も顔は赤いですとも。
「お前……」
「あ、雹牙さん、もうお話終わったから」
「は?」
「どうやっても勝てないって判りました。諦めます」
「うん、ごめんね」
立ち上がった彼女が鞄を開けようとしたので私のおごりだと言えば、再度躊躇した後、会釈をしてから部屋を出て行った。
「なんだったんだ……」
「うん、留め刺したの雹牙さんなんだけどね」
「訳が分からん。まぁ、いい。百合、今度指輪買いに行くぞ」
「どうしたの? 急に」
「そういうのがある方が良いと黒羽にも言われた」
ああ、なるほど。でも、雹牙さんの過去とか色々聞かせて貰って、これ以上別に要らないんだけどなぁ。って言ったら困った顔するかな?
思わず想像してクスクス笑いながら立ち上がると伝票を持ち去っていく雹牙さんの腕に抱き着いてお店を後にした。