第2章 アネモネの夢51~99
珍しく仕事中に仄かな苦笑を昇らせた雹牙さんに見惚れたら、背中に手を回されて歩くように促された。
チラリと雹牙さんの視線が受付の方に向いたのを見て、そういえば私のことをじろじろと見ている若い受付嬢が居たなぁと色々悟った。
うん、多分ラインで言ってた困ったちゃんがあの受付嬢なんだろう、わざわざ多数の目があるロビーで私を見せつけるように触れてくるんだからそうなんだろう。
悟ったことを知らせるために気持ち身体を寄せれば前を見ていた雹牙さんがチラリと私を見下ろして、柔らかい眼差しをくれたので頬がちょっと熱いけど大満足です、ご馳走様です。
ちなみに、パッと見ただけでは仕事モードの無表情ですよ。私をエスコートしている事実を覗けばいつも通りの雹牙さんだと思います、私の会社で見かける仕事モードの雹牙さんまんまですから。
「新人さん、食いついてくるでしょうか?」
「気付いたのか?」
「受付嬢なのに雹牙さんの呼び出しを頼んだら身元確認とかそこまでするのかなって首傾げるくらい徹底されて、挙句物凄くじろじろ見られたから新人さんじゃなくても雹牙さん狙いだっていうのは解るかな?」
「受付としてどうなんだ、それは」
呆れた顔で言う雹牙さんに私も苦笑しながら首を傾げるしか出来ません。他社の事に部外者である私が口を出すことは無理だし、まぁ、当社と比べてもかなり質が悪いと言わざるを得ないけど。
仮にも織田グループ本社に入社できたのに一体何してるんだろう、縁故入社とかあるのかな、ここ……。
雹牙さんがエレベーターの中だからか背後から抱き込んでくるのでちょっと焦ったけど、階数見上げたらもう少しあるので安心して背中を預けると頬を頭にすり寄せられた。
時々思うけど、大型犬っぽい。好きだから嬉しいけど、色々ギャップが激しい気はするよね。
のんびりとそんなことを思いながら目的の階に辿り着くとドアが開く前には雹牙さんは元に戻ってて、私は促されて市ちゃんたちも居る空き会議室に案内されて楽しい昼食を摂ることとなった。