第2章 アネモネの夢51~99
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出社して暫くした頃、私は社長に呼び出されて社長室に来ていた。
「藍羽です」
「入って」
「失礼します」
ノックをして名乗ると、中から声が返ってきたのでドアを開けて入る。社長は席に着いて書類を読んでいる所で、デスクの前まで移動すると用件を尋ねる。
社長は直ぐに顔を上げると一通の封筒を引き出しから取り出して私に差し出してきた。どこかへのお遣いかな? と首を傾げつつ受け取ると、お遣い先は雹牙さんたちの勤め先、織田グループの本社。
私じゃない方が良いんじゃ、それ……と思ったけど、社長からは凄いイイ笑顔で私が適任だから、午後の仕事も気にしなくて良いから、とにかく直帰してやるくらいのつもりで行って来いと放り出されました。なんのこっちゃ……。
「直帰って、本社からここまでそんなに時間かからないじゃないですか。電車の方が車より交通渋滞ないのに」
よくわからないけれど、社長命令では聞かざるを得ず片付けをしてなんか生暖かい目で見送られて首を傾げつつやってきました本社前。
思わずおのぼりさんよろしく見上げちゃいそうになるけど、流石に仕事中、会社の恥になる行動はしてはダメですと自重して顔を引き締めると書類を確認して受付に向かう。
お化粧は最近チェックが入るのできっちりしてます。おかげで昔は苦手だったきつめの顔立ちだけど、雹牙さんから可愛いを貰えたのでもう気にしない。
受付で雹牙さんを呼び出して貰ったら、何故かじろじろと受付嬢に見つめられて何かおかしい所があったかなと首を傾げる。
「藍羽、待たせた」
「いえ、待ってません。これ、社長から預かった書類です」
「ああ。ついでに上がって行けと市が言ってる」
「え? いえ、でもお仕事中……」
「もう昼だ。それとも仕事、忙しいか?」
「……ううん、実は社長に直帰でも良いからって午後の仕事取り上げられたの」
「そうか。松本殿らしいが」