第2章 アネモネの夢51~99
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話が終わって二人で帰ってる途中です。なんか雹牙さんがとても不安そうな雰囲気、気のせい、じゃないよね?
「雹牙さん」
「なんだ」
「どっかゆっくり話せるとこ行きましょう」
「わかった」
やっぱり声もなんか緊張してるっぽい。私といえば、いろんな話を聞けて漸く落ち着いた感じがしてる。
正直なところ、前世がどうだったかというのはあんまり気にならない。だって、それが本当か嘘かって本人だけが知ることで、半世紀くらいなら証明しようがあるけど市ちゃんたちくらい昔だとその言葉を信じるか否かだし。
私は信じるけどだからどうというわけでもないとも思う。だって生きてるのは今で、彼らは過去に戻るわけではない。
雹牙さんが車を走らせて着いたのは何故か高級に分類されるホテル。しかも、高層階にあるラグジュアリー。まぁ、プライバシーとかいう問題では一番信用できる、かな?
どうしよう、別の意味でドキドキしてくるよ! でも、ゆっくり話せるところって頼んだのは私なので、促されれば素直についていくしかない。
ホテルにチェックインして案内された部屋に入る。こんな時間から男女で泊まる用意もなく来たお客に、高級ホテルのスタッフさんは顔色一つ変えないとかとても優秀です。
そわそわしながら電気ポットに水を入れてお湯を沸かすと、お茶を入れてソファに隣り合って座るとぴったり身体を寄せて腕に引っ付く。
ピクリと雹牙さんの肩が揺れて、私を見下ろしてきた。
「雹牙さんが好き。正直に言うと、前世の記憶があるっていうのがどれくらい大変なことかはわからないです。だから、雹牙さんの心配がどういうところにあるのかって、上手く理解できないと思う」
「百合、俺は……」
「忍についても、現代にある資料ってたぶん空想のモノがほとんどですよね? でも、市ちゃんのこと、雹牙さんが物凄く大事にしてるのは初めて会ったころから知ってたし、だから私なんて見てもらえないって思ってた。けど、見てもらえたから、それだけで十分だと思う」
不安そうに揺れる紅くて綺麗な瞳。初めて見た時はカラーコンタクトなのかと思ったけど、二度目に見た時にはそれが素の瞳だと知った。
そっと手を伸ばして頬を撫でるとゆっくりと瞼が閉じていく、私の手にすり寄るように雹牙さんの頭が動く。