第2章 アネモネの夢51~99
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百合に話すと約束してから当日まで短すぎて、何とか説明できるように頭の中で言葉を反芻させる。早朝家を出立し、百合を連れて安土城を訪れる。警備の案内で関係者以外立ち入り禁止の区域に入れば。後は目を瞑ってても歩ける慣れた道を歩いて行く。
「ここは?こんなとこまで入れるんですね」
「まあ、俺達は皇室と国が認める特殊な存在だからな」
スタンと、ある手入れの行き届いた部屋の襖を開ける。そこには事前に頼んで来てくれた者がいて、まるで昔の様だが今は時代が違ったなと笑う。
「市ちゃん」
「百合ちゃんいらっしゃい。ここね、昔市が過ごしてた部屋なのよ」
「さて、どこから話しましょうか」
「雹牙さんの昔を暴露よりも記憶と前世からですよね」
百合をお市様の横に座らせて茶を出す。この過去の遺産と化した城で唯一許されたお市様の部屋は。昔に戻った様で、その場に座ると言い知れない安堵感がやってくる
「俺の本当の名は百地雹牙、伊賀で会ったあの丹波と繋がりのある忍で。今の世では何故か織田の血筋で生まれてしまった」
次いで、黒羽、昴も軽く説明してから。信じられないかもしれんがお市様に忠誠を誓った草の者だと。言った瞬間お市様の婆娑羅で殴られた。
「草じゃないって市言ったよね」
「説明するのに一番近いと思ったんだ!」
話脱線した。つか婆娑羅出すな、百合が興味津々で触ってる。怖くないのか?
まあ、400年前に生きた記憶をのそのままに生まれたいわゆる"転生者"が己やお市様の周囲にわんさか居て、俺もその者達の1人だと軽く話せば。黒羽に雑だと呆れられた。
「…市ちゃんにべったりで、だだ甘で、過保護だったのは。市ちゃんが"主"だからなんですね」
「百合さん、我々は姫様に忠誠を誓った者、普通の者との違いは…姫様を一番に考える事で寂しい想いをさせてしまうかもしれません」
「根っからのこの忍根性、直せないか市も頑張って意識改革したんだけど」
「馬鹿、俺達にそれは無駄だぞ」
「だよねー」
忍の俺達は主を裏切れない。一生かけても返せない恩もあるがそれが俺達なんだと、忍を理解してほしくて。眉間に皺を寄せ言葉を紡ぐも。上手く口から出て来ない。