第1章 アネモネの夢00~50
06
頑張って早く帰ったけど、市さんの方が早かった……!
風除室の自動ドア潜ったらインターホンの前に美人さんな市さんが立っていたので、慌てて駆け寄ればふんわりと笑われてホッとしながらも一人で来たのかと心配して聞けば車を置いている最中だという。
そうか、運転手さんも一緒か、財閥的なとこの御嬢さんなんだから一人なわけないよねと納得して頷いていたら、市さんが来たと言った直後に頭の上に何かが乗ってわしわしと撫でられた。
ビックリしながら誰かと思って私が振り返る前に顔を覗きこまれて、目の前で麗しいお顔の男性が首を傾げるのでうっかりまともに見てしまった!!
うぎゃーッ! って内心で叫びながらもひとまず返事を返さなきゃと、ひたすらブンブンと頭を横に振ったら漸く離れてってホッと息を吐く。
「貸せ、持ってやる」
「うぇ? い、いえ! これくらいっ……ああっ!」
大丈夫と言う前に私が渡したかのようにさらっと荷物を攫われてしまった。どうしようとオロオロしてる私をよそに、にこにこと微笑んでいる市さんと無表情の雹牙さんを交互に見るけど助け舟はない。
がっくりと肩を落としながらも潔く諦めることにした。無表情は通常運転なんですね、まだお会いして数回ですがなんとなく理解しました。
こっくりと自分の中で会話してしまいつつ市さんに声を掛けてオートロックを解除すると中へと促す。まさかの雹牙さん、市さんだけならともかく雹牙さんも来るとか、ほんと昨日寝不足になってでも片付けといてよかった。
どっと疲れを感じつつも自宅前に辿り着いて玄関の鍵を開けてどうぞと促すと、何故か雹牙さんが台所へ向かってしまった。
うぅ……台所はあんまり見て欲しくないのですよぅ。とはいえ、雹牙さんに勝てる気はしないので大人しく明け渡します。市さんがそれについてぶつぶつと言っている。執事力が高い男性に対しては逆らわないのが一番です、などと思うけど口にはしないでいるとスッと目の前にケーキと紅茶がサーブされた。
「ありがとうございます」
がっしと市さんをアイアンクローしている雹牙さんに思わずポカーンとしてしまったけれど、我に返ってそう言えば気にするなと返ってきた。