第2章 アネモネの夢51~99
何枚か手にしては当てて、鏡を覗いてから何か違うと思って下ろすとまた違うのを当てると繰り返していると、不意に黒い下地に薔薇の絵柄がメインに描かれた浴衣を当てられて手の方を見る。
「これにしろ」
「え……っと、うん」
目を細めて優し気な表情を見せる雹牙さんに、不意打ちで心臓がバクバクするのを止められず顔が真っ赤になるのは甘んじてこっくり頷くとぐりぐりと頭を撫でられて雹牙さんの手に浴衣が戻っていく。
必要な小物も揃えられて女将に差し出す頃、市ちゃんの方も晴久君が浴衣や小物を持ってやってきた。
市ちゃんの浴衣は白地に紅い色をメインに描かれた撫子柄の大人可愛い衣装だった。うん、市ちゃんに凄く似合いそう。
可愛いの買えたねと二人笑って言い合い、買ってもらったので二人してお礼を言うとそれぞれ頭を撫でられた。
そうして買った浴衣に袖を通すのを楽しみに仕事をこなし、お祭り当日。朝からあれこれ準備をして、浴衣は自分で着付けると張り切ったけどうまく出来なくて結局雹牙さんにやってもらうという醜態をさらした。
「なんで雹牙さんってそんなになんでも出来るの……」
「幼い時から市の面倒を見てたからな」
「なんか、すごく自信を無くしそう」
しょんぼりとしている私の頬に、着付けが終わった雹牙さんが唇を寄せてきて簡単に機嫌が浮上してしまった。
わたわたしている私を促してそつなくエスコートする雹牙さんは、本当に恋愛初心者なんだろうか? そう思いつつ促されるまま移動して晴久君、市ちゃんとも合流して四人でお祭りの会場に向かった。