第2章 アネモネの夢51~99
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夏も終わりだなぁ……って思ったけど、案外お祭りはまだまだやっているところが多いらしい。
行ける距離にもいくつかあって、そういえば浴衣なんてしばらく着てないなと思ったら口から零れていたらしい。
市ちゃんがそれに食いついて一緒に浴衣を着ることになった。あ、お祭りには晴久君も巻き込んで四人で行くらしいです。
黒羽さんにも彼女さんが居るって言うから一緒にと誘ってみたけど今回はと、軽くお断りされました。残念。
そんなこんなで、私は本日市ちゃんに連行されて着物問屋さんに来ています。スーパーでセットいくらの浴衣じゃないんですね?!
「い、い、市ちゃんッ! 私、こんなところで買う勇気ないよぅ……」
「大丈夫、大丈夫。お会計は雹牙が持つって言ってるし」
「いやいやいやいや、それもっとダメでしょうっ?!」
いつの間に雹牙さんが払うことになってるのーっ?! 市ちゃんに縋りついている後ろで、苦笑しながら立っているのは晴久君、呆れているのは雹牙さんだ。
私なんかに散在しちゃダメですってほんとに言いたい。けど……ちらっと見た雹牙さんは目が合うと口パクで、後でお仕置きと言われてざっと血の気が引く。
意地悪されるわけじゃないけど、恥ずかしくて恥ずかしくて仕方がないのに拒否できないことを半泣きになるまでされるのだ。あ、意地悪になるのかこれ……。
うぅっと唸り声を上げたらコロコロと笑いながらこちらもまた美人な女将さんが、いくつもの反物を手に顔を出した。
今回は出来合いの物を買うはずなのに、と首を傾げるとそちらは浴衣の反物ではなく着物だという。仕立てに時間が掛かるからついでに選んで作るというから、市ちゃんのかと納得してから私は出来合いの浴衣を出してもらう。
「うーん、どうせならあんまり着ないようなレトロモダンなのがいいなぁ」
「百合も肌が白いから、濃い色が似あうんじゃないか?」
「ふぁっ?! あ、ひょ、雹牙さん……」
「なんでそんなに驚くんだ」
「いや、市ちゃんがいたと思ってたから」
「ああ。市ならあそこだ」
指を指されてそちらを見れば、晴久君と楽し気に浴衣を選んでいる市ちゃんが居た。納得、と思って自分も好みの浴衣を探すべく再び浴衣に視線を落とす。