第2章 アネモネの夢51~99
65
「百合、ちょっといいか」
「はい、どうぞ~」
百合より遅くに帰宅した雹牙は、寝る前に百合の部屋を訪れた。出迎えられ、部屋に邪魔をする、と入って来た雹牙は習慣化してるのか百合の頭を撫でてから何かのパンフレットを差し出す。
「乗合船?」
「屋形船なんだが完全予約制でな」
少人数で、夜の屋形船に乗って美味しい夕食を食べるコースがあるんだが。掘り炬燵式か椅子式かどちらがいい?と問われて、百合は決定事項なのかと察する。
展望デッキもあり乗船時間は約2時間45分。美しい夜景を見るなら最高だなと思い「掘り炬燵がいいです」と答えれば、分かったと言って片手でスマホを操作して予約した様だ。
ふと値段が書いてる部分を見つけ、大人1人12000円の数字にビシっと固まった。
「ひょ、雹牙さんこれ…」
「もう予約した、異論は認めん」
「わああん!自分で出しますってばああ!」
自分の分は自分で出すと言う百合の主張を受け流し、膝に乗せて座り頭を撫でてやればううっと悔しそうに黙る彼女を見て雹牙は微笑む
背中に手を回し軽く叩いてやれば子供じゃないと口を尖らせて拗ねる、少し悪戯心が湧いて唇に触れるだけのキスをすると目に見えて固まり両手で顔隠した。
「雹牙さん不意打ち…心臓壊れる」
「まあ、慣れろ」
「無理、このドキドキは慣れるものじゃないです」
むきゃーっと、膝の上で暴れる百合の背を撫で。己も随分と変わったなと思いながら百合の頭の上に顎をのせて目を瞑る。気が付けば百合は真っ赤になりながら腕の中で大人しくしていた
完全予約制、値段の割に結構人が居るなと辺りを見回してから屋形船に乗り込むと、予想よりも内部は広く居心地の良い雰囲気に満足して席に座る。
百合にどうだ?と問えば夜景が綺麗だと機嫌が良さそうでホッとした。
料理を待つ間、ぼうっと外を眺めていれば妙に刺さる視線にチラリと辺りを見る。乗るのがカップルばかりだなと一瞬思ったが己もその中に入ってるんだな。俺は。
「雹牙さん黙ってても芸術作品みたいですよね、ダビデ像みたいに、こう、絶世の美女?ヴィーナスとか」
「褒めてるんだよな?」