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アネモネの夢

第2章 アネモネの夢51~99


そろそろお開きという頃にはすっかり酔いは回っていて、それでもかろうじて終わる前に雹牙さんにメッセージを送ることは出来た。

「藍羽さん、大丈夫?」
「だいじょうぶですー。もうじき、おむかえきてくれますからー」

心配そうなフリで下心ありと思われる男性に声を掛けられて、多少間延びしてはいるがいつもの営業スマイルで応対していると頭をガッシと掴まれて身体から力が抜けた。
背後によろければ逞しい胸元で受け止められて頼り甲斐のある腕が腰に回った。

「百合、お前酒弱かったのか?」
「んーん、ふつうれす」

キャーッ! と黄色い悲鳴が上がり、私を受け止めた人である雹牙さんが煩そうに顔をしかめた。
どんな顔でも美形は目の保養です。思わずうっとり見ていたら仲の良い同期から私の鞄を受け取った雹牙さんが、会費もさっさと払って私を小さな子どもみたいに抱き上げた。

「じゃあ、藍羽はこのまま連れて行く。失礼する」

雹牙さんは一言言い置いて、私の靴も拾い上げると軽々と歩いて駐車場の車に移動した。
助手席に私を乗せて、ドアを閉めたら運転席に回ってエンジンがかかる。
私の意識がそろそろ怪しくて、何故か急にさっきの黄色い悲鳴を思い出してムッとしたらポロポロと本音が零れ落ちた。

「雹牙さんはずるい……なんでそんなにかっこいーの?」
「褒めてるのか貶してるのか」
「そんなんじゃ、雹牙さん好きな人一杯出来ちゃう」

自分で言って悲しくなってくるけど、一度零れた言葉はなかなか止まらない。
困惑してエンジンを切って向き合った雹牙さんに私も視線を向けると涙腺まで崩壊したらしい。

「百合?」
「……わらひも、すきなのに。ぜったいむりだけどぉ……」

ポロポロと涙まで溢れてきて、それと一緒に絶対口にしないと思っていた気持ちまでが落ちてきた。
けど、泣いたことで血の巡りが良くなったのか私はそのまま寝落ちして、雹牙さんがどんな返事をしたのかは判らずじまい。
更には、そう言った記憶すら綺麗に忘れ去って、翌朝二日酔いは回避したので雹牙さんにお礼と謝罪を告げ、何事もなかったかのように元気に出勤したのは言うまでもない。
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