第2章 アネモネの夢51~99
「服、持っていくんじゃないのか?」
「持っていくんですけど、流石に、その……」
「別に似合う物しかないんだから構わんだろう」
「でも、だって! ね、年齢に不相応だって、言われて……」
雹牙さんが視線で示したのは、私が本当に好きなデザインの服たち。いわゆる森ガールというジャンルに分類されるそれらは結構ゆるふわで、キツイ印象を与える自分の顔にあんまり似合わないのは知っているけど好きで一人で出かける時や家の中ではそれを着ている。
誰かと出かける時は、友達の顔を潰すのは申し訳なくて印象に見合う物にするんだけど……。実は雹牙さんが初めてなのだ、このジャンルの服で一緒に出掛けたのは。
不思議そうに首を傾げる雹牙さんに、気にしていることをぼそぼそと言えば一言断ってから部屋に入ってきてくいっと顎を持っていかれた。
何事かと目を見開くと、しばし顔を見つめた後にペチンとおでこを叩かれて思わずあいた! と声が出た。
「今も言っただろう。似合ってるって。好きな物を好きに着て、堂々としてろ」
「……うぅぅ」
「おら、飯食うぞ」
「はーい……。ほんとに、変じゃないですか?」
「変じゃない」
ついっと視線を逸らしてさっさと部屋を出て行く雹牙さんに、聞こえるか聞こえないかで呟いた声は届いていたらしい。ぴしゃりと即答されて、嬉しくて顔がにやけてくるのをそのままにえへえへいいながら後をついて行った。
家具たちはクローゼットなどは備え付けだし、家電はキッチン用品はそれぞれ友人や仲の良い同期で欲しい人に譲り、不要な物はリサイクルショップの引き取りサービスを利用して引き取ってもらう。
持っていくものは洋服と日用品、タオルなんかの生活雑貨と自分専用の食器くらいだ。あ、雹牙さん用に以前買った食器は割れた時の予備として織田家に引き取られるらしいです。
美味しい食事を頂いて、満足してからまた引っ越しの準備を進める。大きな荷物がないなら、とちょっとずつ頻繁に使わない物はまとめて様子を見に来た雹牙さんが持ってって部屋に放り込んでくれているので引っ越し業者要らずで楽ちんです。
「あとはこれだけか?」
「はい。他は、来週完全に退去する時まで必要なので」
「わかった。ちゃんと飯食って寝ろよ」
「はーい、パパ」
「誰がパパだ」
「ぎゃっ?! ギブ! ギブですッ!」