第2章 アネモネの夢51~99
54
帰蝶さんと信長公が来て早一か月、あと一週間でこのマンションを出て織田家の”私の部屋”と言われた場所にお引越しです。
現在、私が何をやっているかと言えばお仕事も終わって自宅マンションに戻り、クローゼットを開けて織田家に持ち込む衣装の選別デス。
なんであれから一か月も経っているかと言えば、織田家にとお誘い頂いた時にこのマンションの更新期限が翌月だったことと、退去手続きなどは自分でやりたいとお願いしたせいである。
現金な物で、あのあったかいご家庭に混じれると思ったら寂しさもなりを潜めて、今はウキウキしながら日常生活を送っている。
ちなみに、市ちゃんのお願いとかなんとかで、お願いしますとお返事を返した日から週に一、二度、何故か雹牙さんがマンションに顔を出してくれる。
うん、まぁ、お返事した日に会った雹牙さんに一週間程度でどんだけ痩せたんだとアイアンクロー頂いたから、多分ちゃんと食事してるかとかの監視なんだと思う。
――ピンポーン、ピンポーン
「はーい」
「邪魔をする」
「はい、どうぞ」
インターホンが鳴ってモニターに映ったのが雹牙さんだったので、戸惑いなく鍵を開けるとわしわしと撫でられた。
くすぐったくて首を竦めると手が離れて行って少し寂しい。無意識に視線で手を追っていたのか、ペチペチと頬を撫で叩かれて中に促された。
リビングに入ると鞄を置いて迷わず雹牙さんがキッチンに入って行く。今日は雹牙さんが夕飯作るから何もするなってライン来てたんデス。
勝手知ったるで作り始める雹牙さんに、私も慣れてしまってそのまま自分の部屋に逆戻りする。開けっ放しでクローゼットを整理していると、いつの間にか料理を終えた雹牙さんが扉に寄りかかってた。