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アネモネの夢

第2章 アネモネの夢51~99


そして翌日、私はお土産を持って雹牙さんに送ってもらって会社に行くと、お昼休み直前になって社長室に呼び出された。

「藍羽です」
「ああ、入って」
「失礼します」

ノックをして中に入ると、社長の傍にはいつ来ていたのか雹牙さんと、つい先日も手を掴まれ困惑した男性社員の杉田さんが居た。
何故? とは思ったけど、社長から何らかの指示があり私より前に呼ばれたのだろうと一人納得すると、彼には目もくれず社長を見る。

「ご用件は何でしょうか?」
「うん、用があるのは僕じゃなくて彼だよ」
「え……?」

社長に用件を聞いたのに、用があるのは杉田さんだという。
今までの経験から条件反射で表情も固まり、ビクリと身体が竦んでしまう。
そんな私に雹牙さんがスッと傍に来てくれて、見上げると仕事中の無表情が返ってくる。
凪いだ瞳にホッとして小さく頷くと、杉田さんに向き直る。

「ご用、とは?」

私の様子を見ていた杉田さんが、苦笑になりそこねたような微妙な表情で私を見る。
少し泣きそうにも見える表情に、首を傾げるといきなり身体を前に倒し、深く頭を下げてきたので驚いて頭を上げてくれと頼むがそれを聞いてくれる様子はない。
そのままで話を聞けと雹牙さんに宥められ、居心地が悪いながらにもう一度用件を問えば謝罪された。

「先日までの失礼を謝罪したく、社長に相談したんだ。君の気持ちを汲むこともなく自分の感情と都合だけ押し付けて、申し訳なかった」
「え……っと」
「今後は必要以上に君に関わらない。二度と今までのような押し付けも、だ」
「本当に?」
「ああ」

じいっと杉田さんを見ると、今までとは違い真摯な目をしていたので信じる事にした。

「こちらこそ、色々すみませんでした。それと、ありがとうございます」

怖かったけど好意自体に嫌悪したわけではないので、ニコリと笑んで言えば目を見開かれた後に泣き笑いの顔をされてしまった。
ソレに困って雹牙さんを見れば、こつりと小さく小突かれて回れ右をさせられる。
そのままランチに出ろという事だろうと扉まで歩くと、社長を振り返りきちんと会釈をしてから社長室を出てランチを済ませ、午後の仕事に取り掛かった。
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