第1章 アネモネの夢00~50
多分、ここで僕が頑なに自分の思い込みを信じていれば、やがて左遷させられるだろうことは予想に難くない。彼女に害が及ぼうものなら、それは緩やかではなく急激にやってくる未来だ。
店のガラス越しに見える彼女は、共に居る女性と楽しそうに笑い合い、時折美麗な男に呼びかけてあれこれ言っている様だ。
「諦めます。ただ、これまでの謝罪は彼女にしたいと思います。もちろん、今度は彼女を捕まえるんではなく、社長にお願いして立会いの下で」
「良い心がけだと思うよ。まぁ、頑張って」
残念だったね、と笑う男は仕事に行きなさいと僕を促して姿を消していった。
もう一度振り返って柔らかな笑顔を見せる彼女を見て、漸く自分の愚かさを理解したが後の祭りだろうと僕は踵を返した。