第1章 アネモネの夢00~50
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「慰安旅行ですか?」
「うん、伊賀の方面で知り合いが旅館をやっていてね、温泉ファンに人気な隠れ宿なんだと。藍羽君と市姫と、晴久君と…
雹牙君、凄い顔してるけど4人で行かないかい?」
「松本社長…その知り合いって」
「行ったら分かると思うけど?ってかもう雹牙君なら旧知の仲でしょ?」
「あんたら旧知だったのか!」
雹牙が珍しく悲痛な叫びを上げてる中、一緒に呼び出された市と晴久は苦笑いで。珍しい反応に百合は首を傾げて雹牙を見る。
知り合いでも居るんですか?首を傾げて問う百合に固まって、雹牙は小さく「行きたいか?」と問えば慰安旅行だなんて初めてかもと嬉しそうに頷くのを見て
がっくりと項垂れながら、片手は百合の頭を撫でていたので市と晴久は思い切り噴き出して声を殺して笑った。
「あ、でも。雹牙さんが嫌なら諦めますよ?」
「いや、大丈夫だ、例の件ももう直ぐ終わりそうだからな」
「そうなんですか?」
「「…ぷっ」」
「よし市、晴久、そこに座れ」
「逃げるぞ市!」
「合点!」
珍しく雹牙さんが壊れてるなあと、呑気に考えていれば帰るぞと手を引かれ、休みは明日から有休使っていいぞと松本に手を振られたので振り返す。
雹牙も一旦自宅に寄ってから荷物を整理してくると、百合を連れて織田に寄ると、濃姫が用事で早く帰って来てたのか「いらっしゃい」と笑顔で百合の頭を撫でた。
「久しぶりに会うんだからそんなに邪険にしないの」
「いえ、アイツは…はい」
「こめんなさいね百合ちゃん、この子伊賀に居るある御仁が苦手なだけだから気にしないでね」
「あ、はい」
「楽しんでらっしゃい」
にっこりと、美しい笑みで濃姫に見送られ。百合もうきうきと旅行の準備をするものだから。雹牙は何も言えずに軽く息を吐いて腹を括った。
車を運転するのは雹牙と晴久、織田家から借りたワゴンRに荷物を積んでから目的地に車を走らせた。
後部座席で百合と市は景色を眺めながら、一泊二日の旅行で何を食べようかと会話に花を咲かせる