第1章 アネモネの夢00~50
的確な指摘なのだろう、松本の言葉に悔しげに顔を歪めた彼はココで初めて視線を逸らし俯いた。握りしめられた手は怒りにだろうか、屈辱だとでも思っているのか小さく震えている。
松本は小さく息を吐くと、彼女の無自覚に人を引き付ける面も難儀だなと苦笑する。一応、この杉田という男は公私を分ける分別がついているので、今回の執着は振られたことがない自分を振る彼女が認められない。単純な男のプライドという奴だろう。
それでも、と松本は更にもう一つ息を吐いた。
「発信機を取り付けたりするのは、もう犯罪だよ。セクハラだけじゃない、立派なストーカー行為だ」
「なっ!?」
「昨日、雹牙君から車に付いていたと連絡があったんだ。警察の知り合いに頼んで、こっそりと指紋も照合して貰っている」
「……申し訳、ありません」
「彼女はね、直感型なんだよ。交友関係に関してはとても野性的でねぇ……彼女が余り好まない相手は、強かで腹黒く、彼女をあまり信用しない人間が多い」
今までも、彼女を好んで呼びつける社長の中で、彼女をからかって遊ぶのが楽しいと言った者には大概後から憂鬱そうに苦手だと愚痴られていた。
つまり、そういうことなのではないかと松本は予想していた。彼と初めて会話した時、彼女は無意識に彼が自分ではなく肩書きや外面しか見ていない、自分を大切にしない男性だと判断して苦手な相手だと分類したのだ。
苦手な相手だと判断すれば、彼女は徹底的に避けるだろう。今回の件で他にも問題行動に出そうな者が居るかと調べた時、彼女に振られても友好的な関係を築いている。男性社員は皆穏やかな性格だと評されている者ばかりだった。